すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

書楼弔堂 破曉  (ねこ3.8匹)

イメージ 1

 

明治二十年代の半ば。雑木林と荒れ地ばかりの東京の外れで日々無為に過ごしていた高遠は、異様な書舗と巡りあう。本は墓のようなものだという主人が営む店の名は、書楼弔堂。古今東西の書物が集められたその店を、最後の浮世絵師月岡芳年や書生時代の泉鏡花など、迷える者たちが己のための一冊を求め“探書”に訪れる。変わりゆく時代の相克の中で本と人の繋がりを編み直す新シリーズ、第一弾! (裏表紙引用)

 


京極さんの文庫新刊。京極作品はメインシリーズ以外は当たり外れが大きいのだけど(と、言っても大きなハズレはないんだけども)これはかなり当たりの類じゃないかしら。少し京極堂シリーズに雰囲気が似てるし、なんと舞台が書舗というのが最高。三階までぎゅうぎゅうに詰められた本、本、本。やってくる客には「生涯の一冊」を売るというスタンスもいいし、出てくる人物がほぼ実在していた作家などなどっていうのもたまらない。勿論自分がなぞってきた作家ではないし、出てくる書物も雑誌だったり洋書だったり果ては新聞だったりと、馴染みあるものではないのだけどね。書物への愛情みたいなものが伝わるところが共感出来るんじゃないかなー。

 

語り手の高遠は妻子がいるのだけど仕事を辞めて(武士をやめて?)別の家に住んで、働くでもなくフラフラ暮らしているという設定。だからこそ書舗に通えるっていう。書舗の店員・しほるのキャラもいい。子どもとは思えない話しぶりだし美少年らしいし。

 

決して派手な作品ではないのだけど、ゆったりと流れる時間っていうのを京極さんの文章で堪能出来る作品だと思う。信心とは地獄を妄信することではない、とか過去のものは表現のし方が古いから古く感じるのだ、とか、ハっとさせられる言葉がたくさんあって、これぞ京極世界だなあと思う。最後にあのシリーズのあの人とリンクのようなものがあってテンションも上がります。