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重力ピエロ  (ねこ4.8匹)

 

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伊坂幸太郎著。新潮社。

半分しか血のつながりがない「私」と、弟の「春」。春は、私の母親がレイプされたときに身ごもった子である。ある日、出生前診断などの遺伝子技術を扱う私の勤め先が、何者かに放火される。町のあちこちに描かれた落書き消しを専門に請け負っている春は、現場近くに、スプレーによるグラフィティーアートが残されていることに気づく。連続放火事件と謎の落書き、レイプという憎むべき犯罪を肯定しなければ、自分が存在しない、という矛盾を抱えた春の危うさは、やがて交錯し…。(紹介文引用)
 
22.2.23再再読書き直し。
 
改めて読んでもやはり巧みな作品であることが分かる。
「ピエロが空中ブランコから飛ぶ時、みんな重力のことを忘れているんだ」
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだ」などの名文があちこちに散りばめられ、それがストーリーの重要な場面のあちこちに効いている。レイプされた母親が妊娠し、出産するという衝撃的な設定だが、その犯罪や人生の重さ=重力を家族はどう背負っていくのか。春や泉水の行動(それが間違っているとしても)をピエロのブランコ乗りと例えるならば、落ちるかもしれない重力を乗り越えられるかもしれない。出産の是非や犯罪の嫌悪感にだけ着目しているようでは到底到達できない地点だろう。彼らは遺伝子が絶対的ではない、強姦魔の血など存在しない。それを証明してみせた。一緒に暮らしていくうちに似るということもあるだろうから非現実的ではないんだよね。2番目の「赤の他人が父親面するんじゃねえよ」の台詞が1番好きだ。
 
また、伊坂作品に登場したカカシ(伊藤)や泥棒の黒澤も登場させるなど、伊坂作品の世界が地続きであることの再確認もさせてくれる。母親が生きているパターンでも読んでみたかったな。
 
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