すべてが猫になる

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まどろみ消去 (ねこ3.8匹)

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森博嗣著。講談社文庫。

大学のミステリィ研究会が「ミステリィツアー」を企画した。参加者は、屋上で踊る30人のインディアンを目撃する。現場に行ってみると、そこには誰もいなかった。屋上への出入り口に立てられた見張りは、何も見なかったと証言するが……。(「誰もいなくなった」)ほか美しく洗練され、時に冷徹な11の短編集。(裏表紙引用)
 
20.6.3再読書き直し。
 
S&Mシリーズ2編を収録した、全11編の短編集。メインシリーズとは少し違う、森さんらしい雰囲気のバラエティに富んだ作品ばかり。
 
「虚空の黙禱者」
1人息子を抱えるミドリは、寺の住職のところへ引越しの挨拶に趣いた。ミドリの夫は5年前強盗殺人の容疑者となり、そのまま失踪したのだが…。被害者の息子と交流があるというのが結構変わってるなあ。まさかそういう真相だったとは。。ミドリと住職の関係が不思議だが、ミドリもずっと疲れていたのかもね。
 
「純白の女」
一人旅中のある女と、そこにこっそりついてきた少年の話。ポエム調の物語で、幻想的。そこに殺人事件が加わってなんともゾクっとする結末。
 
「彼女の迷宮」
あるミステリィ小説家とその妻の話。今回だけ妻が描いたという連載作品、妻は色々と生活に不満があったのかな。
 
「真夜中の悲鳴」
大学院生スピカが体験した、実験室の近くで起きた暴行事件。その正体はなんと…というお話なのだが、実験の成果(事実)とも絡んでいる。森さんの描くホラーも理系。
 
「やさしい恋人へ僕から」
森さんを投影したお話だと思った時点で罠に引っかかってるのだなあ。スバル氏って森さんの奥さんだよね。どうもごちそうさま。
 
ミステリィ対戦の前夜」
ミステリィ研究会に初めて出席した西之園萌絵。なんでモエ、がカタカナ?と思っていたらそういうことだったか。いやしかし萌絵はこういう喋り方だし機嫌が悪いときはこれぐらい感じ悪いよ…と言いたくなった。。
 
「誰もいなくなった」
萌絵が企画したミステリィ研究会のミステリイベント。参加した浜中フカシと萌絵の友人牧野ヨーコ。こちらもカタカナってことは…。消えた踊る30人の謎を話を聞いただけであっさり看破する犀川さんカッコイイ。くやしがってる萌絵が面白い。
 
「何をするためにきたのか」
モラトリアム全開って感じだなあ。大学生となった青年が日々何のためにこれをするのか悩めるという。出会った人々との冒険で何かを吹っ切ったのかな。
 
「悩める刑事」
これも引っ掛けだね。最初に思っていた設定が最後には違うことが分かるという。いい夫婦だと思うなあ。
 
「心の法則」
精神科医を志す男と知り合いになったモビカ氏。男はモビカ氏の姉に惹かれる。石を拾ってきて家の壁にモザイク画を描くというのは凄いな。前歯こわい。。
 
「キシマ先生の静かな生活」
大学院生とキシマ助手の交流の物語。自由人がフラれて放浪して、、って話かと思ったら人生山あり谷あり。それはこういう人でも同じなんだなあ。ちょっとオチがショックだったけど。
 
以上。
バラつきはあるが割とどれも好み。文学的だけど論理的、という森さんワールドが遺憾無く発揮されている。メインシリーズだけのファンなら物足りないかもしれないが、誰が読んでも森博嗣の文章だと分かる世界観はさすが。