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乗客ナンバー23の消失/Passagier 23  (ねこ4.2匹)

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セバスチャン・フィツェック著。酒寄進一訳。文藝春秋

 

乗客の失踪が相次ぐ大西洋横断客船“海のスルタン”号。消えた妻子の行方を追うべく乗船した敏腕捜査官の前に現れる謎、謎、謎。錯綜する謎を解かないかぎり、ニューヨーク到着まで逃げ場はない。無数の謎をちりばめて、ドイツ屈指のベストセラー作家が驀進させる閉鎖空間サスペンス。(紹介文引用)

 



2019年度の「このミステリーがすごい!」海外部門第7位作品。スルー予定だったのだが、たいりょうさんの記事に触発されたので読んでみた。セバスチャン・フィツェック、「治療島」を読んだことがあるので。

 

随分と世間の評価は厳しく、その理由には賛同するも、私はただただ単純に、純粋に面白かったと思う。まず主人公マルティンの職業が驚き。囮捜査官として危険な捜査に打ち込み、時には麻薬を打ったりタトゥーを入れたり、歯を抜いたりしなければいけない過酷さだ。

 

そんなマルティンだが実は3年前にクルーズ客船「海のスルタン」で妻と息子を失っており、自殺で処理されている。鬱屈した気持ちで日々暮らしているマルティンに、見知らぬ老婆からまたあの船に乗るよう促す電話が。妻と息子が自殺でない証拠が見つかったと言うのだ。一方、乗客の一人ユーリアは娘と共に乗船したが、異様な問題を抱えていた――。


船内で次々と問題や事件が発生し、水面下で捜査するマルティンは、協力者の小説家志望の老婆ゲルリンデ(微妙に狂人)や船医のエレーナ(船長と婚約なう)と共に犯人の仕掛ける罠や悪人との闘いをかいくぐってゆく。泥棒が登場して話をややこしくしたり、行方不明だった娘が見つかって心を開くのに腐心したりと息つく暇のないスリル。娘との会話の謎にそんな仕掛けが!?1つずつ明らかになるたびにヤバさが増していくこの興奮。何よりこの事件を1番印象深いものにした、おぞましい動機。えー!そんな人いるの!?なんてひどい。そしてわかっていても騙されるどんでん返し。ドッキドキ。まさかあの人が。

 

なぜここで終わらせない?ラストは蛇足が過ぎた。ハードル上げすぎだよ、謝辞のあとにエピローグを用意するなんて。あの仕掛けでかなり評価を下げた人が多いとみた。(あの位置に謝辞を挿入することで目的を達成していると思うが)


ありていに言えば、ノンストップ型ジェットコースターサスペンス。面白いだけで深みはないということか。確かに私も、二転三転する真相の吸引力やキャラクターの魅力はジェフリー・ディーヴァーの足元にも及ばないなと思ったし、おなじみの「犯人に恨まれた女性長期間監禁」ものの残酷性ならば「特捜部Q」や「その女 アレックス」の域には到底達していないことぐらいは感じていた。完全なエンターテインメント小説なのだと思う。そう、シドニィ・シェルダンだと思えば絶対面白い。私は多分今年のランキングに入れると思う。そうね……7位くらいに。