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さよなら、田中さん  (ねこ3.8匹)

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鈴木るりか著。小学館

 

14歳スーパー中学生作家、待望のデビュー 

田中花実は小学6年生。ビンボーな母子家庭だけれど、底抜けに明るいお母さんと、毎日大笑い、大食らいで過ごしている。そんな花実とお母さんを中心とした日常の大事件やささいな出来事を、時に可笑しく、時にはホロッと泣かせる筆致で描ききる。今までにないみずみずしい目線と鮮やかな感性で綴られた文章には、新鮮な驚きが。
友人とお父さんのほろ苦い交流を描く「いつかどこかで」、
お母さんの再婚劇に奔走する花実の姿が切ない「花も実もある」、
小学4年生時の初受賞作を大幅改稿した「Dランドは遠い」、
田中母娘らしい七五三の思い出を綴った「銀杏拾い」、
中学受験と、そこにまつわる現代の毒親を子供の目線でみずみずしく描ききった「さよなら、田中さん」。
全5編収録。(紹介文引用)

 


べるさんが紹介されていた作家さんを早速読んでみた。14歳でデビューした文学界期待の星だそうだ。読む前は「まあ、ゆうても多少は14歳っていうフィルターがかかっているんだろう」と思っていたが…いやはや、お見それしました。とにかく文章がうまい。普通に大人の商業作家がジュブナイルを描きましたというレベル。よくこんな言葉知ってるな、というものから、さらにそれを自分の言葉に置き換えるセンス。ジャンピングする紅茶、銀杏地図なんて表現普通なら一生かかっても浮かばない。

 

ストーリーは、貧乏だが母と娘(花実)二人でたくましく生きる人情ものの日常物語。特に印象に残ったのがまずは母親の再婚話を応援する花実の気持ちが切なく響く「花も実もある」。見合いを断られた母のために「わたし、居なくなりますから。どっか行きますから。それでもダメですか」と見合い相手に直談判するシーンは号泣もの。晴れ着を着せてやれない娘のために母らしいやり方で七五三を祝う「銀杏拾い」もいい。
そしてラストは花実に片想いするクラスメート・信也に語り手をチェンジ。これがもうなんとも読むのが痛々しくて。虐待、と言ってもいい酷い母親なんだもの。これで本当にいいのかなあ、と思わなくもないけれど、ラストで信也と花実の未来が明るいものであれと思えた。


作者が様々な視点で世の中を見つめているのがわかる。文章に見合うだけの社会経験はないはずだが、鈴木るりかさんが普段感じているものをそのまま出している感じがするので決して背伸びしているとは言い切れないだろう。情感の深さやユーモアのセンスからもそれは見て取れる。不足はあると言えばあるが、これから描くたびにうまくなるのだろう。西加奈子さんを彷彿とさせると言ったら褒めすぎだろうか。