すべてが猫になる

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向田理髪店  (ねこ3.6匹)

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かつては炭鉱で栄えたが、すっかり寂れ、高齢化ばかりが進む北海道苫沢町。理髪店を営む向田康彦は、札幌で働く息子の「会社を辞めて店を継ぐ」という言葉に戸惑うが…。(表題作)異国からやってきた花嫁に町民たちは興味津々だが、新郎はお披露目をしたがらなくて―。(「中国からの花嫁」)過疎の町のさまざまな騒動と人間模様を、温かくユーモラスに描く連作集。 (裏表紙引用)

 

 

奥田さんの文庫新刊は、単発ものの連作集。

 

北海道は苫沢町を舞台にした、理髪店の主人康彦目線で描かれた田舎のぬくもり溢れる短編集。なのだが、あまり短編集って感じはしなかったな。6編収録されているが、どれもハッキリとした結末がない感じで、問題も人生もそのまま続いていくという作風。個人的にはもっとちゃんと解決したり光が見えたりする物語のほうが好みなのだけど。

 

過疎化の進む苫沢で、時々起きるちょっとした事件や変化。私は田舎育ちではないけれど、ちょっと気持ちが分かるな~と思ったのが、80代の夫がくも膜下出血で倒れてしまった妻の話「祭りのあと」。良くなることを見込めない状態で長引くというのが1番厄介なんだよね。。そういう感覚も含めて、不謹慎かもしれないがそれが当事者にとっての現実。長年連れ添った献身的な妻が解放されたという感覚も、他人には責められないと思う。

 

あと、「中国からの花嫁」。40まで嫁が見つからず、年々無口になっていく男の話なんだけど。周りはめでたいとしか思っていないのに(一部除いて)、本人が勝手に被害妄想に陥って町民から逃げてしまうというのもなんか分からんでもない。でも確かに田舎や親戚って干渉が凄いかもしれないけど、悪意のある人ってそんなに居ないんじゃないだろうか。現実は知らんけど。

 

犯罪を犯したり、揉め事を起こしたりする人とも暮らしていかなきゃいけないのが苫沢の生活。息苦しさもあるけれど、どんな人も受け入れる度量と情があるのがいいと思った。主人公の康彦が穏やかな人物で、怒ったり人の悪口を言ったりしないところも、この作品を温かいものにしている一因だったかもしれないな。