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名もなき毒  (ねこ4.2匹)

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宮部みゆき著。文春文庫。

 

今多コンツェルン広報室に雇われたアルバイトの原田いずみは、質の悪いトラブルメーカーだった。解雇された彼女の連絡窓口となった杉村三郎は、経歴詐称とクレーマーぶりに振り回される。折しも街では無差別と思しき連続毒殺事件が注目を集めていた。人の心の陥穽を圧倒的な筆致で描く吉川英治文学賞受賞作。 (裏表紙引用)

 


杉村三郎シリーズ第2弾。

 

まずはじめに。シリーズは順番に読むべし、を痛感した一冊だった。「ああ、この人次で死ぬ」とか「あっ橋本登場!お~ま~え~~はしもと~~~」とか新居の書斎に喜ぶ杉村あああああとか、先に知っておきたくなかった情報がてんこ盛りでもったいない感がすごい。考え方によっては、別の楽しみ方が出来たとも言えるのかもしれないが。

 

それはさておき、人間の心に巣くう毒や、シックハウス症候群や、青酸カリを使った無差別連続殺人事件などなど、色々な毒をテーマにしたこの作品は素晴らしい。特に、噂に聞いていた毒女「原田いずみ」の腹黒っぷりは強烈だった。腹黒というより、完全に頭のおかしい人間。履歴書は大嘘だわ仕事はできないわ注意されたら上司を侮辱しテープカッターを投げつけるわ嘘をつくわ。。特に、彼女の兄の結婚式で仕出かした騒動には呆れるを通り越してこちらの精神がやられる。ニュースなんかを見てても、端から話が通じないというか、毒を持って生まれてきたとしか思えない人間って確かにいるんだよね。それが自分の身に関わってきたらと思うとゾっとする。やたらと他人を批判する人は、毎日がつまらなくてつまらなくてしょうがないんだろうな。こういう人間の持つ毒の矢が放たれたら対抗手段がないし、後から後から生まれてきて淘汰されることはないんだろうなと思う。

 

毒殺事件のほうは予想通りの人間が犯人だったけれど、この人の場合は原田いずみとは違うというか、こちらは社会の犠牲者的な面もあるのかなあと思う。貧乏とか不幸って、一度はまると抜け出せない仕組みになってるんだろうか。もちろんやったことは許せないし短絡的だと思うが。


事件のことはそれとして、問題は杉村の家庭。「ペテロ~」の時に感じた「あの人物」への違和感が、この作品を読むと少し払拭されたような気がする。いや、支持するわけじゃないけども。これって杉村も良くなかったんだなあって。家庭より事件のことで頭がいっぱいなのを責めるのは、「ヤキモチ」ではないよ杉村ぁぁ。。。作中で、杉村が妻や子、家庭の幸せを頭の中で確認するたびに空々しく聞こえてしまうのは気のせいじゃなかったんだなあ。合ってないと思うよ、「おむこさん」。