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ペテロの葬列  (ねこ4.4匹)

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宮部みゆき著。文春文庫。

 

「皆さん、お静かに。動かないでください」。拳銃を持った、丁寧な口調の老人が企てたバスジャック。乗客の一人に、杉村三郎がいた。呆気なく解決したと思われたその事件は、しかし、日本社会の、そして人間の心に潜む巨大な闇への入り口にすぎなかった。連続ドラマ化もされた、『誰か』『名もなき毒』に続く杉村シリーズ第3作。(上巻裏表紙引用)

 


しししまった、「名もなき毒」を飛ばしてしまった(持ってるのに)。。でも「誰か」を読んでいるので杉村?誰やねんの世界にはならず。杉村が今多コンツェルン会長の娘婿で、グループの末端社員、色々事件に巻き込まれる。まあこれぐらい把握しておけばきっと大丈夫。

 

上下巻で約850ページあるのでのんびり読もうと思ったが、そんなお気楽なテンションでは読んでいられない傑作だった。「紳士的だが口のうまい老人」による緊迫のバスジャックだけで一作仕上げられたのではないか?というほど書き込みがしっかりしている。年齢も性別もバラバラの、女性運転手を含めた人質たちの性格や境遇がむき出しになって、悪人であるはずの老人のほうに肩入れしてしまう展開に自分も同じ気持ちだと唾を飲んだ。

 

そのバスジャックは上巻の中盤ほどであっという間に解決してしまうのだが、そこから物語の見せ場がこれでもかと続く。詐欺事件に絡む「詐欺師になってしまった元は善良な人々」を問題提起とし、悪の根絶を願い自らも悪魔になってしまった人間たちと、それに巻き込まれ本性をむき出しにする元・人質たちとの関わり。そりゃあ、お金に本当に困っている時に何百万の慰謝料なんて言われたらしがみついてしまう気持ちもわかる。本当の悪人なら、後ろめたくなったりムキになったりすらしないだろうし。でも坂本は嫌いだよ、私。田中より。これは自分の年齢がどっちに近いかが関係しているのかもしれないけど。


バスジャック事件で明らかになった園田編集長の過去や、人質になったニートの坂本の裏事情、杉村にかかったパワハラ疑惑などなどが次々と解決し、ああこれで大団円なのかなと思ったらまだまだページ数がある…まだ何かあるのかと思ったら、最後にとんでもない爆弾が待っていた。まさかあの人物がそんなことになっていたとは。。その人物には腹立たしさしか覚えなかった。結局あれでしょ、王子が「ちょっと庶民の生活を経験してみたい」ってやつ。

 

そんなこんなで杉村にも試練と決断が待ち受けていたわけだけど、会長の懐の大きさがかなり一役買っていた作品だったと思う。そうでないとこの結末はやるせない。長い物語の果てにたどり着いた様々な人々の人生と締めくくりが胸を打つ、宮部さんの小説家としての力量を充分に見せつけられた幸せな読書体験だった。自分はこういう感覚をいつも物語に探しているのだと思う。