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死の鳥/The Deathbird and Other Stories  (ねこ4匹)

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ハーラン・エリスン著。伊藤典夫訳。ハヤカワ文庫。

 

25万年の眠りののち、病み衰えた惑星“地球”によみがえった男の数奇な運命を描き、ヒューゴー賞/ローカス賞に輝いた表題作「死の鳥」、コンピュータ内部に閉じこめられた男女の驚異の物語―「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」、初期の代表作「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」など、半世紀にわたり、アメリカSF界に君臨するレジェンドの、代表作10篇を収録した日本オリジナル傑作選。 (裏表紙引用)

 


何度も「火の鳥」って書きそうになった。。ハーラン・エリスン2冊目。「~愛を叫んだけもの」(長編)はそれほど印象に残っていないんだが、この短編集はめちゃくちゃ自分好みだった。文体がカッコイイって書いてる人多いけど、本当にそう。タイトルもいちいちカッコ良くて、目次だけで詩集になりそう。

 

では10編中面白かったものを(ほとんどだが)。

 

「『悔い改めよ、ハーレクィン!』とチクタクマンはいった」
遅刻したらその分の寿命を削除される方策。チクタクマンのオフィスで心臓プレートが消去されると死んでしまうらしい。道化師の格好をして人の嫌がらせをしているエヴァレットをチクタクマンが探してる…。あらすじだけでもう面白い。「一九八四年」と同じく、反逆と革命の物語。政府の矛盾を突いたオチがいい。

 

「竜討つものにまぼろしを」
避けられない悲劇的な事故死を遂げた男が、死後の世界で旅をし魔物を倒し女の愛を射止めようとする話。彼が「背後から刺す」卑怯な人間だと判断され、天国にいるに値しない人間に貶めたってことかと解釈。

 

「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」
知能を持つコンピュータの腹の中に閉じ込められて109年。生き残った5人は不死となり、改造され、アイデンティティを奪われ、台風や地震や怪物に襲われる。こうなると死んだほうが幸せだろうが、主人公がああいうことになっても反逆心を失わないのは戦争やコンピュータ社会に対する作者の警告なんだろうか。

 

「プリティ・マギー・マネーアイズ」
これはタイトルいまいちかな?ギャンブル狂の男が、スロットマシン内部の別世界にいる女につなぎとめられ愛し合う。こういう闇世界?裏の業界?同士の関係って、最初から破滅の匂いがする。こういう場合の女性は必ず悪魔か魔物。欲渦巻く世界に未来はないのかも。

 

「世界の縁にたつ都市をさまよう者」
娼婦を次々殺害し解体する男は未来の3077年の世界に呼ばれた。無菌で清潔な都市は彼が理想とするものだったが、殺人では素晴らしい世界を成し得ないということなのかな。

 

「死の鳥」
超絶難解。蛇の姿に変えられた男(アダムとイブのアダム)がひとり終末を迎える話。聖書の引用や出題などなど、さすがにこれはそっち方面の知識がないと読みこなせない。最後のマーク・トゥエインがわからない。でも意味がわからないなりにも感覚的には楽しめたかも。

 

「鞭打たれた犬たちのうめき」
殺人現場を目撃した女性ベスは何もしなかった自分を見つめる窓辺からの目を意識する。って、そこからこんな展開になる??すごい発想力だ。暴力が接触の最たるものだなんて。。つまりその逆が作者のメッセージかな。

 

「北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中」
ランゲルハンス島=膵臓、タイトルの場所はホワイトハウス、ってこれ常識なの???解説を読んでからやっとイメージが湧く難解さ。自分の体内を放浪するってこれがほんとの自分探し。。

 

「ジェフティは五つ」
五歳から見た目も中身も成長しない友人、ジェフティ。ジェフティのラジオからは、昔の懐かしいラジオドラマが流れ、彼と映画館に行くと古い名作が楽しめる。夢みたいな郷愁溢れるお話だが、悲しい悲しい結末。人は過去にとどまってはいけないということ?


以上。世間が言うほど読みにくくもないし、すべてが難解でもない。読むほどに「これはこういうことかな」と自分の感じたことがどんどん広がっていく感覚だった。発想はすごいが内に込められたテーマやメッセージはごく普遍的なものなので、難しい作家だと最初から敬遠する必要はないと思う。先日読んだイーガンの短編集が「面白い!」だとすればこちらは「カッコイイ!好き!」ぐらいの違い。