すべてが猫になる

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紙の月  (ねこ4.3匹)

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角田光代著。ハルキ文庫。

 

ただ好きで、ただ会いたいだけだった―――わかば銀行の支店から一億円が横領された。容疑者は、梅澤梨花四十一歳。二十五歳で結婚し専業主婦になったが、子どもには恵まれず、銀行でパート勤めを始めた。真面目な働きぶりで契約社員になった梨花。そんなある日、顧客の孫である大学生の光太に出会うのだった・・・・・・。あまりにもスリリングで、狂おしいまでに切実な、傑作長篇小説。各紙誌でも大絶賛された、第二十五回柴田錬三郎賞受賞作、待望の文庫化。(裏表紙引用)

 


角田さんにハマりぎみ。宮沢りえちゃん主演で映画化もされたのでタイトルぐらいは知っているという人も多そう。ドラマにもなってたか。映画のラストがどうしても気に入らなかったので確認の意味も込めて読んでみたらやっぱり。。。監督のあとがきも要領を得ないし。。


内容は、銀行のパートタイマーをしている真面目で優秀な41歳の女性(梨花)が横領に手を染めてしまうというもの。若い男に熱を上げたから、夫が自分と向き合ってくれないから、子どもが出来ないから、理由を並べてしまうとどれも「ありがち」で言い訳にならないようなことだが、角田さんは梨花が「つましい暮らしの幸せ」にどれほど憧れていたか、どれだけ夫に尽くしたか、そして梨花が徐々に夫のちょっとした言葉や行動に違和感を抱き始め、自分というものを見失っていく過程を丁寧にリアルに描く。妻が自分より稼ぎが下だということをアピールしたがる夫。梨花に奢ってもらうと後日必ずそれより格上の店に連れて行き「ごちそうさま、は?」と感謝を促す夫。読者から見ても、こんな虫も食わないプライドを持った、配偶者とさえまともに向き合えない夫はイヤだ。

 

そして映画にはなかったのが、今回の事件と無関係の梨花の同級生や元カレたちの生活。彼らが梨花との思い出を回想しながら営まれる暮らし。それが普通の人々の彼らの生活もまた非常に危ういバランスで成り立っているだけなことが分かる。節制しすぎて家庭が崩壊した主婦、稼ぎの少ないことを毎日愚痴る妻と暮らす男など。彼らの日常を描くことによって、梨花の犯した犯罪は決して他人事ではないのだということが見えてくる。

 

梨花が買い物や若い男に熱中してしまう心理はまるで特定の誰かの話を聞いているように説得力があった。幸せになりたかった、自分自身になりたかっただけの哀れな1人の女性。光がないなら、誰かに寄りかかるだけで良かった。