すべてが猫になる

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ぼくのミステリ・クロニクル  (ねこ4.2匹)

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戸川安宣著。空犬太郎編。国書刊行会

 

東京創元社で長く編集者として活躍し、伝説の叢書「日本探偵小説全集」を企画する一方で、数多くの新人作家を発掘し戦後の日本ミステリ界を牽引した名編集者、戸川安宣。幼い頃の読書体験、編集者として関わってきた人々、さらにはミステリ専門書店「TRICK+TRAP」の運営まで、「読み手」「編み手」「売り手」として活躍したその編集者人生を語りつくす。 (紹介文引用)

 


私のお仲間さんで戸川さんを知らないという人はよもや居なかろうが東京創元社で長年活躍された名編集者である。私のような、子どもの頃からハヤカワと創元に育てられた者からすれば神のような存在。この方がいなければ世に出なかったかもしれない作家さんはきっと数知れない。


ご自身の半生を振り返る回顧録の形となっており、単行本にして約400ページ強、どっぷり読みふけった割に意外と日数はかかった。丁寧で真面目な筆者の人柄そのままの性格を現した本。子どものころ「少年探偵団」やルパン、ホームズにハマった経緯やカーやクイーンなどの大人向けミステリに移行していく読書好き戸川少年がまぶしい。まるで自分の子どもの頃のよう。あの時代は、八百屋や魚屋みたいに本屋が各家庭に御用聞きしていたというのだから羨ましい。学校の先生がホームズを読んでくれたり、江戸川乱歩が近所に住んでいたりと全くなんという時代だ。私にとっての乱歩なんて卑弥呼ぐらい遠いぞ。


その他にも小泉喜美子さんが作家をやめた経緯や今邑彩さんの死に様、森村誠一さんとの確執、岩崎さんがしでかしたミステリーコンペでの組織票騒動(笑)などなど、面白い裏側から「うわ~、それ知りたくなかったなあ」レベルのものまで、包み隠さず描かれていてビックリ。


ちょっと意外だったのが、戸川さんらは西村京太郎氏や赤川次郎氏、東野圭吾氏などの系統に対する偏見?壁?みたいなものはないのね。あと、森さんや京極さんの本をなぜ扱わないのかも描かれていたのでスッキリした。まあそれはハヤカワも同じだが。あとあと、創元推理文庫の背表紙の色で謎だった「青」と「茶」の分類方法も分かって良かった(笑)。そしてこの本を読むと全集を無性に揃えたくなる。。。


特徴として良かったのが、本がバカ売れする時代から売れない時代まで全てを経験なさっている戸川さんがそのことについて一体どうお感じになっているのかが伝わったこと。創元やハヤカワなんて特にそうだろうと思うがミステリやSF、そして本の形態そのものが好きでないと絶対に出来ないお仕事だもの。本が売れないんです買ってくださいという趣旨のことは一切描かれていないのも、「まずいい仕事をすること、良い作品を生み出すこと」を使命としてらっしゃるからだろうなと。読者としても背筋の伸びる、出す意義のある作品だった。