すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

スクラップ・アンド・ビルド  (ねこ3.8匹)

イメージ 1

羽田圭介著。文春文庫。

 

「じいちゃんなんて早う死んだらよか」。ぼやく祖父の願いをかなえようと、孫の健斗はある計画を思いつく。自らの肉体を筋トレで鍛え上げ、転職のため面接に臨む日々。人生を再構築中の青年は、祖父との共生を通して次第に変化してゆく―。瑞々しさと可笑しみ漂う筆致で、老人の狡猾さも描き切った、第153回芥川賞受賞作。(裏表紙引用)

 


羽田さん2冊目。「黒冷水」であれほどあの陰鬱とした閉塞感にヤラれたというのにまた読んでしまった。羽田さんと言えば私はまずローカル路線バスを思い浮かべるんだけどね^^;で、この方は家族を描いた作品が多いのかな?たまたま?

 

本作は30代で求職中、実家暮らしの青年と介護の必要な祖父との同居生活をこれまた陰鬱に描いた作品。毎日死にたい死にたいと漏らす祖父のため、マイナス介護という手段を取る健斗。足も使わなきゃ衰えるし、脳だってそう。労働者ヘルパーは自分が楽をしたいために優しさを発揮するのだと嘯く健斗と、電車で座れる席を探し人前で舌打ちをする彼女。祖父に暴言を吐き続ける母親。この作品が描いているのは出口のない閉塞感に苛まれる、現代の日本人の姿かな?どこにでもこういうギリギリの家庭は潜んでいると思う。

 

「黒冷水」と同じくネチネチと絡みつくような描写で危うく飲み込まれそうになったが、祖父に暴言を吐くようになった健斗と祖父の隠された姿を読んで、このお話の方向性はある程度見えたかな。こういう「犯罪には走らないけれど周辺に害を及ぼす」グレーゾーンの人間がたくさんいるのでは。