すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

ザ・サークル/The Circle  (ねこ4匹)

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デイヴ・エガーズ著。吉田恭子訳。ハヤカワ文庫。

 

世界一と評されるインターネット企業、サークル。広々とした明るいキャンパス、信じられないほど充実した福利厚生、そして頭脳と熱意と才能をかねそなえた社員たちが次々に生み出す新技術―そこにないものはない。どんなことだって可能なのだ!サークルへの転職に成功した24歳のメイは、新生活への期待で胸をいっぱいにして働きはじめるが…。エマ・ワトソン主演映画化。SNSとウェブの未来を予言するサスペンス。 (裏表紙引用)

 

 

映画の何倍も面白かった、文体も海外作品とは思えない読みやすさ。

 

SNSに支配された社会を実現するという非常に興味のある題材。頭の回転が速く親しみやすい美人のヒロイン・メイがエマ・ワトソンで、これがまたピッタリハマったなと。


憧れの会社「サークル」に入社しCEに配属され、初日から大活躍のメイ。毎日のように開催されるパーティ、料理教室、ゲーム、コート、ビュッフェにテンションMAXになるのは分かる。

 

ブランチに来ないと問題にされ、何百とつくメッセージを読み返信し、ニコマークを付けてまわり、何万人という社員や世界と繋がり合うと社内ランキングが上がる仕事なんて地獄に来たとしか思えないんだが…。カヤックをやったならなぜSNSにアップしなかったんだと言われ、会ったばかりの人に20分後メッセージを山と送りつけられ、返信がないと催促され…。挙句「透明化」の名のもと、カメラを一日中付けられ全世界に自分の全てを晒し始終何千というコメントをもらいながら生活するなんて正気の沙汰じゃない。お腹壊したらどうすんの?好きな人が出来たら?それすら秘密にすべきでないなんて、情報を独り占めすることは犯罪だなんて詭弁中の詭弁だろう。

 

その息苦しさにメイが気づき破滅していくストーリーなのかと思ったら、このメイがイライラするほどの愚か者でむしろそれを楽しんでいる様子。まるで宗教。

 

極端な世界を構築することによって、情報社会の落とし穴や全てを明瞭にすることの恐ろしさをむき出しにした作品なんだろうと思う。その証拠に壊れていくメイの両親や友人、元彼たち。全てが実名化したからって愉快犯はいなくならないだろうし、どこにでも付けられるバレないカメラなんて犯罪の匂いしかしない。まあそこは手厚いのでやったらバレるんだろうけど。それで全ての人々が正しい道を行くなんて理想にも程があるな。犯罪者の識別とか、投票の義務化とか、実現してもいいんじゃ?と思うものも多々あったが(プライバシーや自由の権利を考えたら無理)…。

 

SNSで毎日全世界に自分の食べたものや好きなものを投稿している人間が、それを大舞台で衆人環視の中データ表示され紹介されたらなぜあれほど恥ずかしいのか。そこにこの作品が伝えたいことのヒントがあるんじゃないかと思った。私は承認欲求を悪いこととは思わないが、この世界が透明化に追いつく日は多分来ない。誰かが、主張していいものと悪いものの区別を付けられないうちは。