すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

肺都/Lungdon  (ねこ5匹)

イメージ 1

エドワード・ケアリー著。古屋美登里訳。東京創元社

 

穢れの町は炎に包まれ、堆塵館は崩壊した。生き延びたアイアマンガー一族は館の地下から汽車に乗り、命からがらロンドンに逃れる。だが、そのロンドンは闇に侵食され、人々のあいだには奇怪な感染症が蔓延していた。この町にいったいなにが起きているのか?そしてアイアマンガー一族のおそるべき野望とは?一族に反発するクロッド、瓦礫のなかから脱出したルーシー…。物語はいかなる想像をも凌駕する驚天動地の結末を迎える。アイアマンガー三部作堂々完結。(裏表紙引用)

 

 

アイアマンガー三部作、完結してしまった。

 

「肺都」とは「ランドン=ロンドン」のことで、穢れの町を追い出されたアイアマンガー一族がロンドンを恨んでいう蔑称。故郷を追われ、愛する人ルーシーを失ったクロッドは一族共々ロンドン・ウェストの無人の家に隠れ住む。アイアマンガーが来てからというもの、ロンドンの町からは昼が消え失せおかしなことばかり起こる。帽子掛けは涙を流し、刷毛の持ち手からも毛が生えて、舟は沈むほど重たくなる。フォーリッチンガム出身者は見つかり次第強制隔離または銃殺される。

 

ただただルーシーに会いたいだけの、居場所が欲しいだけのクロッドが痛々しい。一族に嫌われ疎まれても、物を動かす能力を強くし環境を変えようとするクロッド。

 

一方ルーシーは生き残りの子どもたちと、さらにロンドンの角灯団を味方につけてクロッドを探し続ける。引き裂かれるクロッドとルーシー。これが単なる個人同士の恋愛問題じゃないから難しいよね。だけどこれは想いが強ければ叶うと思わされる物語だし、正しいのは誰か?という状況によって変わってしまう正義に対する風刺の要素も含んでいると思う。だから結末は当然こうなる。私がこの物語に望んでいたことはクロッドとルーシーの幸せだけではなく、こういうことだったんだなと後になって分かった。何の不満も抱き得ない最上のエンディングだと思う。