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友罪  (ねこ3.7匹)

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あなたは“その過去”を知っても友達でいられますか?埼玉の小さな町工場に就職した益田は、同日に入社した鈴木と出会う。無口で陰のある鈴木だったが、同い年の二人は次第に打ち解けてゆく。しかし、あるとき益田は、鈴木が十四年前、連続児童殺傷で日本中を震え上がらせた「黒蛇神事件」の犯人ではないかと疑惑を抱くようになり―。少年犯罪のその後を描いた、著者渾身の長編小説。(裏表紙引用)

 


もし自分の親友が残虐な連続殺人犯だったらどうするか――。薬丸さんらしい、少年犯罪や更生、その周りを取り巻く人々の人生にスポットをあてた力作である。

 

ここに登場するのはジャーナリストを目指すも挫折し、埼玉のステンレス加工会社に流れ着いた益田と、同日入社した鈴木。無口な鈴木を益田も社員も遠巻きに見つめていたが、次第に打ち解けあう。特に益田は、鈴木に自分の過去を話してもいいと言われるほどの仲となる。しかし鈴木の持っていた写真に写っていた少年の顔にどこか見覚えがあった益田は、独自に彼の過去を調べるようになった、という流れ。

 

この作品、加害者である鈴木を、その猟奇性だけではなく多面的に切り取るやり方をしている。そのため、益田も読者も彼を残酷な殺人犯という視点意外でジャッジしなければならない。そこに葛藤が生まれる。幼児を2人も残酷に殺害した犯人を擁護したり情が湧くなどあってはならない、そう思いながらも、鈴木の見せる優しさや真面目さ、勇気を否定することはできない。

 

結局「殴ったりネットで中傷したりするほどの憎しみはないが、自分の側にはいてほしくない」が大多数の人間の偽らざる本音ではないだろうか。そのあたりの益田の心の変化は見事。「自分なら、そんな殺人犯が近くにいたらすぐ気づく、絶対普通とは違うはずだ」と思う人がいるならそれは驕りだと思う。誰しもが、益田と同じ状況に置かれる可能性はあるのだと気づかされた。

 

この作品に出てくる登場人物が、ほぼ何らかの愚かな過去を背負っていたり、救いがたい人間であったりする。昔の恋人のAV出演をネタに、会社にそのDVDをばらまくストーカー、正義、使命という大義名分のもと、他人の人権を踏みにじるエセジャーナリスト、知人の出演するAVを喜々として楽しむ下衆――。1度失敗した人間には何を言ってもいい、犯罪でさえなければ何をしてもいいんだという残念な人間が鈴木の周りには溢れかえっており、もちろん猟奇犯罪とは比べ物にならないが――鈴木との対比が浮き彫りにされる。正直ゾっとした。

 

特別意外な展開や仕掛けがあるでもないが、益田が出した鈴木への友情、その答えには心揺さぶられた。「犯罪者と友だちでいられるか」という一見社会問題としては優先度の低いテーマからでも見える問題はまだまだ尽きないのだなとこの作品で実感することになった。