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ハードラック  (ねこ3.6匹)

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薬丸岳著。講談社文庫。

 

二五歳にもなって日雇い仕事する失い、「大きなことをするため」闇の掲示板で四人の仲間を募った仁は、軽井沢で起きた放火殺人の汚名を着せられてしまう。なぜおれを嵌めた?信じられるのは誰だ?手探りで真犯人を探す仁、闇世界の住人たち、追う刑事。物語は二転三転し、慟哭の真相へと向かっていく。(裏表紙引用)

 

 

最近ハマっている薬丸さん。読む手の止まらない面白さや読みやすさはもう安定しているな。

 

本書の主人公は、25歳でネットカフェ生活に落ちぶれた青年・仁。持ち前の短気な性格と堪え性のなさから職場を転々とする仁は、ついに日雇いの派遣会社からも見放された。追い詰められた仁は噂で聞いた「闇の掲示板」にアクセスし、裏の仕事に手を染めてしまう。最終的には求人欄に「大きなことをしよう」と書き込むまでになった。集まった連中は底辺をさまよう人間ばかりだったが、人を傷つけないという約束のもと強盗を企てることに。しかし強盗決行中、仁は何者かに頭を殴られ意識を失う。気がつくと血のついたナイフと100万円の札束だけが目の前にあり、強盗に入ったはずの屋敷は火に包まれていた――。3人の遺体が発見され、仁は冤罪を晴らすために犯人探しを始める。

 

最初は主人公の仁に本当にイライラして仕方なかったのだが、読み進めるうちにそれほど悪い奴でもないんだなと思えるようになった。愚かであることは間違いないのだけど、例えどんなに地を這い回っていようとも、犯罪にさえ手を染めなければそれがどれほど自由で素晴らしい時間であるかに気づけたのは良かった。自分の人生が冴えないことを家庭環境や社会のシステムのせいにして結局は自分自身の性質から目を背けている人はたくさんいると思うのだが、そう思うだけにしてもらいたい。同情の余地がないわけではないし、大事件が起きないと変わらない社会なのは間違いないと思うが。そういう、現代にいるかもしれない、いや確実にいるだろうタイプの人間にスポットを当てて掘り下げる作品としてはなかなかのレベル。

 

ミステリ的にはそれなりに衝撃的な真相ではあったが、逆にその部分が走り気味だったかなと。あまり意外性はないだけに、犯人側の掘り下げも丁寧であって欲しかった。仁とそれほど違わない人種だと思うので。作品の出来としては総合的に「まあまあ」だが、読ませる力はさすがなので多少の瑕疵は許せる気がしないでもない。