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謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア  (ねこ3.8匹)

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“崩壊国家ソマリア”の中で奇跡的に平和を達成しているという謎の独立国ソマリランド。そこは“北斗の拳”か“ONE PIECE”か。それとも地上の“ラピュタ”なのか。真相を確かめるべく著者は世界で最も危険なエリアに飛び込んだ。覚醒植物に興奮し、海賊の見積りをとり、イスラム過激派に狙われながら、現代の秘境を探る衝撃のルポルタージュ。第35回講談社ノンフィクション賞梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞作。 (裏表紙引用)

 

 

高野さんは日本のノンフィクション作家としてはかなり名の知れた人だと思うが、読むのは初めて。感触としては、なるほど、こりゃ人気あるわけだという印象を持った。アフリカをテーマにしたノンフィクションが成功するなど有り得ない世界で、いかに読者に親近感を持たせ興味を抱かせるかという点では右に出る者は居なさそうだ。

 

なんと言っても、高野さん独特の「例え」が効いている。海賊国家プントランドを「ONE PIECE」、南部ソマリアを「北斗の拳」、未知のソマリランドを「ラピュタ」に例えるなど、下手な作家が描けばふざけているのかと思われるのではないだろうか。ソマリの氏家制度などは日本の戦国武将に例えている。(個人的には苦手なので余計に混乱した。しかし覚える必要もなさそう)覚醒植物カートを現地の人とバリバリ食し、ソマリ語を学びながらアクティブに取材を続ける。時には海賊を体験してみたりと、大丈夫なのかこれというギリギリのところまで行う作者に少し苦笑しながらも、謎の国で暮らす疑似体験をこの本が可能にしたと言っても過言ではない。

 

行動が素早く、会話がコロコロ変わり、女性は自由でアグレッシブ。繰り返される離婚と再婚、氏家との関係性。日本と対照的な、被害者感情を重んじる制度。銃の携帯が必要のないソマリランドの平和は一体何によって保たれているのか。そこにあるのは日本で報道されている「悲惨なソマリア」のイメージを180度覆えすその姿だった。

 

無実のビジネスマンが懲役20年だの卑弥呼の墓だの犯罪の9割はポリスが起こすだの、さあこれを知ってどうするんだと言われても困るが、何でも「現場を見てみないとわからない」はあるんだと思えた。ジャーナリストへの見る目が変わるとまではいかずとも、少なくともこれを読んでそれをする意義がないとは思わない。ご一読あれ。