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楽園  (ねこ4.4匹)

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宮部みゆき著。文春文庫。

 

未曾有の連続誘拐殺人事件(「模倣犯」事件)から9年。取材者として肉薄した前畑滋子は、未だ事件のダメージから立ち直れずにいた。そこに舞い込んだ、女性からの奇妙な依頼。12歳で亡くした息子、等が“超能力”を有していたのか、真実を知りたい、というのだ。かくして滋子の眼前に、16年前の少女殺人事件の光景が立ち現れた。(裏表紙引用)

 


模倣犯」の続編。あの事件に深く関わったライター・前畑滋子が登場する。模倣犯事件の体験が強く滋子の心理に影響しているのと、事件の犯人や真相がハッキリ描かれているので先にこちらを読まないように。

 

模倣犯事件ですっかり精神が摩耗していた滋子のもとに、一人の中年女性から興味深い依頼が舞い込んできた。事故により12歳で亡くなった息子・等が描いた絵は、両親に殺害され16年前に行方不明になっていた少女の事件を示唆していたのだ。事件は時効を迎え、両親は火災により自首。少女には6歳離れた妹がいるが、両親の事件を受けて新婚三ヶ月で離婚、両親の行方はわからなくなっていた。

 

なぜ、次女の人生が崩壊すると分かっていて両親は自首したのか。16年前に何があったのか。等には本当に予言能力があったのか。あまり私は過去の事件を浚うものが好きではなく、最初はノレなかったのだがあとあと一気に引き込まれて行った。それには、滋子に依頼をしてきた敏子の存在が大きい。まるで教祖のような祖母、信者のような親族に人生をいいように使われ、やっと掴まえた幸せもすぐに掌からこぼれ落ちてしまった敏子。気が弱く自分の意志などおよそなさそうな敏子が、実は誰よりも優しく義理堅い女性だと気づくまでに時間はかからなかった。滋子の人物像も、自分の使命というものに対する葛藤があり、一旦こうと決めたからには揺るがない強い意志がある。ライターにありがちな、使命感の履き違えを起こさないところが好印象だった。

 

事件の真相はとても一言で感想を言えるようなものではなく、そこには我々一般人が想像も及ばないような家族の深い闇があった。そこには人間の愚かさやみっともなさを知らしめると同時に「肉親とは何か」から「身内にどうしようもない人間がいたら見捨てていいのか」という問題を焚きつけるという厳しさもある。こういう宮部さんの肥大しない正義感がいつも私たち読者のリアリティを呼ぶのだと思う。真相が「アッチ寄り」だったのが少し残念なのだが、読後はそれを補ってあまりある充足感だった。