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トオリヌケ キンシ  (ねこ4.6匹)

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加納朋子著。文春文庫。

 

「トオリヌケ キンシ」の札をきっかけに小学生のおれとクラスメイトの女子に生まれた交流を描く表題作。ひきこもった部屋で俺が聞いた彼女の告白は「夢」なのだろうか?(「この出口の無い、閉ざされた部屋で」)。たとえ行き止まりの袋小路に見えたとしても、出口はある。かならず、どこかに。6つの奇跡の物語。 (裏表紙引用)

 

 

加納さんの文庫新刊。6篇収録の短篇集。

 

「トオリヌケ キンシ」
小三の陽は、学校の帰り道で見つけた「トオリヌケキンシ」の看板に興味を惹かれ、その奥まで侵入していく。そこには話したことのないおとなしいクラスメイト、あずさの家があった――。ほのぼのとした子どもの交流のお話かと思っていたら、突然暗い現実を叩きつけられて驚いた。それでもそこには過去からやってきた希望があった。

 

「平穏で平凡で、幸運な人生」
共感覚という力を持つ少女と、生物教師の交流。メフィスト賞にそんなのあったな。慕っていた教師の突然の訃報。それが数年後の、かつての少女にどんな影響を及ぼしたのか。平穏だったはずの人生に突然降って湧いた不幸。ベタだけど、そうなればいいなと思っていた現実に感激の涙。

 

「空蟬」
子どもの頃、優しかった母が突如豹変。タクミは現在大学生だが、過去に虐待を受けた心の闇や新しく来た義母の存在に立ち直れずにいた――。空想の友だちタクヤの真相にビックリだが、義母にそういう秘密があったとはそちらのほうがビックリだった。こういうアレは聞いたことがある気がするが、「だったらしょうがない」とは思えないレベルだもんなあ。でも解決して本当に良かった。

 

「フー・アー・ユー?」
他人の顔を識別できない症状を抱える、高校生の佐藤。ある日突然隣のクラスの女子に告白され、浮かれて友だちとしてデートを重ねるが――。告白した理由が最低だし、デートに友だち連れてくるか?しかも双子コーデで。普通の男の子ならあるあるかもしれないが、相貌失認だというのに。と、思っていたが深い理由と誤解が。友だちの正体はなるほどって感じ。

 

「座敷童と兎と亀と」
妻を亡くしたばかりのおじいさん。近所に住む主婦の兎野さんは、おじいさんに奇妙な相談事を受けるが――。こんな病気があるのか。大変な事が色々起きているお話だし、ハッピーエンドなのかどうかも分からないが――人生は続く。兎野ファミリーかっこよかったなー。惚れた。

 

「この出口のない、閉ざされた部屋で」
明晰夢を操る、引きこもりの少年。日々彼は他人の幸せを妬み、明晰夢だけを拠り所に自分の思い通りにしていくが――。ここで今まで出てきた登場人物が数人登場。特にゴリ野くん大活躍。そういうことなのかなあ、と思っていたらその通りだった。加納さんの辛い経験に裏打ちされた物語だと思った。


以上。様々な症状、障害を抱えた人々が登場し、時には人生の助けとなり、時には試練となって襲いかかる。加納さんご自身の辛い闘病経験がなければ生まれなかったかもしれない物語ばかりだ。人生は甘くないし、理不尽だということを身を持って教えてくれる。そして加納さんは、必ず彼らに希望を与える。結局人を救うのは人だということ。全人類が読むべき傑作。