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江神二郎の洞察  (ねこ4匹)

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英都大学に入学したばかりの一九八八年四月、すれ違いざまにぶつかって落ちた一冊―中井英夫『虚無への供物』。この本と、江神部長との出会いが僕、有栖川有栖の英都大学推理小説研究会(EMC)入部のきっかけだった。アリス最初の事件「瑠璃荘事件」など、昭和から平成へという時代の転換期である一年の出来事を描いた九編を収録。ファン必携の“江神二郎シリーズ”短編集。(裏表紙引用)

 

 

江神さん&学生アリスシリーズ、初の短編集ぃやっほぃ♫大事にチビチビ読んでいたのだけど何にでも終わりは来るもので。この短編集なら1500ページぐらいあってもいいよ。最初はアリスと江神さん(推理小説研究会)の出会いから、最後はマリアが入部するきっかけまでフル収録。

 

「瑠璃荘事件」
EMCの先輩望月の下宿先で大事な講義ノートが盗まれ、望月に嫌疑が。ありふれた事件につまらない動機だが、論理的でよい。望月がそういう奴ではないという信頼の上で成り立っている話だよね。青春だあ。

 

「ハードロック・ラバーズ・オンリー」
数ページのショートストーリー。ハードロックカフェで知り合った女性の秘密が明かされる。言われたらハッと腑に落ちる真相。

 

「やけた線路の上の死体」
EMC夏合宿先の和歌山で起きた鉄道事故現場へ足を向けた一行だが――。鉄道薀蓄は正直ウザイが、当該列車の特徴がキモだというのが知的だな。本当の謎が何かを見極めるのが大事、かあ。

 

「桜川のオフィーリア」
9年前桜川で溺死した少女の謎を雑文ライターでEMCのOB石黒がアリスたちに相談する。事件をハムレットになぞらえて単なる事件ではなくしているのがいい。

 

「四分間では短すぎる」
アリスが公衆電話の横で聞いた「四分間しかない――」という言葉の謎をEMCで解き明かす。ハリイ・ケメルマンごっこ面白い。「点と線」のネタバレもあるので注意。2つの作品を考察するのでかなりのミステリ好きじゃないと辛いかも。本格ミステリによるリアリティの欠如はロマンだという言葉がすてき。ちょっと空耳アワー入ってるが、オチがついてて笑った。アリス愛されてるね。

 

「開かずの間の怪」
洋館風の廃病院に幽霊が出ると聞いていざ乗り込んだEMCだが――。踊る骸骨に2メートルの子ども、先に帰った織田のいたずらなのか?密室ものでありながら、ホラー要素も強くて遊べる作品。

 

「二十世紀的誘拐」
アリスの先輩2人のゼミを持っている坂巻教授の自宅の家が盗まれた。犯人は弟なのか?なぜ価値のない絵を盗んだのか?わずか1000円の身代金のために色々振り回されるアリスたちが愉快だな。まあ自分がこれやられたらやっぱり気付かない自信があるわ。

 

「除夜を歩く」
望月が描いた犯人当てミステリー「仰天荘殺人事件」の謎に挑戦するアリス。ミステリのふか~い考察満載。仰天荘も読み応えあるけど、江神さんとのお参りに萌え。しょぼいトリックと言うけれど面白かったけどな。実際可能かはともかくだな。

 

「蕩尽に関する一考察」
マリアとEMCとの出会い話。古本屋の主人が最近やけに気前がよいのはなぜか?を江神さんが推理する。マリアが惹かれたのが、単なる頭脳の鋭さというだけではないところが「らしい」感じで感動的。

 

以上。「月光ゲーム」の悲劇がトラウマとなっているアリスが痛々しい。他にも懐かしい面々がチラホラ登場。ファンなら喜べる要素だが、かえって切なくなるかも。全体的にマニアックでパズル的要素や薀蓄も多く、シリーズファンのみならずミステリファン受け間違いないだろうな。短編集シリーズ第2弾待ってます。