すべてが猫になる

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私に似た人  (ねこ3.7匹)

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小規模なテロが頻発するようになった日本。実行犯たちは実生活では接点がないものの、一様に、冷たい社会に抵抗する“レジスタント”と称していた。テロに関わらざるをえなくなった、それぞれの人物の心象と日常のドラマを精巧に描いたエンターテインメント大作。(裏表紙引用)

 

 

貫井さんの文庫新刊。ここんとこ貫井作品はハズレ続きでどうしてくれようと思っていたが、本作でなかなかの秀作に当たった。あらすじを読んだ時には正直ん~?また突拍子もない感じ?と抵抗があったのだが、日本で頻発する、小口テロと呼ばれる犯罪に絡む人々を順番に登場させ、社会の貧困層中流層との関係性やなぜテロが起きるのかなど、一人一人の登場人物を深く掘り下げていくという実に貫井さんらしい力作だということがわかった。

 

地味だが堅実な保育士の復讐心、他人との会話が苦手な工場員の鬱屈、息子をいい高校へ行かせたい専業主婦、レジスタントを取り調べる公安刑事など、周りのどこにでもいそうな立場の人々にスポットが当たる。どれほど屁理屈を振りかざそうが自分にはとても同調出来る考え方ではないが、ところどころ首肯せざるを得ない意見も。

 

物語のメインはテロにより混乱する日本社会が「トベ」というフィクサーの存在によってどう展開していくか、終結はあるのかであるが、最終章で明かされるトベの正体に度肝を抜く。巧みに張り巡らされた伏線によってこの謎を見事に目くらまししており、やっと貫井さんの面目躍如というところだろうか。でも、私は貫井さんが「どちらの側」で描いているのか掴めなかったんだよなあ。