すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

悪党  (ねこ3.8匹)

イメージ 1

薬丸岳著。角川文庫。

 

探偵事務所で働いている佐伯修一は、老夫婦から「息子を殺し、少年院を出て社会復帰した男を追跡調査してほしい」という依頼を受ける。依頼に後ろ向きだった佐伯だが、所長の木暮の命令で調査を開始する。実は佐伯も姉を殺された犯罪被害者遺族だった。その後、「犯罪加害者の追跡調査」を幾つも手がけることに。加害者と被害者遺族に対面する中で、佐伯は姉を殺した犯人を追うことを決意し…。衝撃と感動の社会派ミステリ。(裏表紙引用)

 


久々に薬丸さんを。文庫が出たら必ず読もうと思っていたのだが、ちょっと間を空けてしまったら追いつかなくなってしまった。

 

本作はまたしてもなかなかに重い考えさせられるテーマを扱っている。主人公の佐伯は探偵事務所で働いているが元は警察官。職務中に犯罪者の口に拳銃を押し込んでしまった過去があり、さらに佐伯の姉は学生の頃集団暴行により亡くなっている。今はもう出所している、姉を殺した男たちの現在を調査しつつ、事務所に来た依頼もこなすという内容。佐伯の事務所では、犯罪加害者のその後を調査を受け付けているのだ。章ごとに別の人物が登場し、それぞれ息子を殺された老夫婦や母親に弟を餓死させられた青年や強盗殺人者の姉などが加害者の行方を調査依頼する。

 

ニュースで知るような許しがたい犯罪者、そしてその量刑の軽さに憤ったことのない人間はいないだろう。これを読んで少しでも溜飲を下げて下さい、というわけでもなかろうが、基本的に「加害者に厳しい」をモットーとした作者なのだと感じる。それが当たり前だろう、という向きもあろうが、東野さんのようにそうではない作家さんもいるのでそれが薬丸氏の個性だと言って差し支えないと思う。それだけに、リアリティがあまりなくなってしまったのは仕方がないところか。加害者の弁護士が犯罪被害者遺族になり改心するなどというくだりはまさに。(なんか…そうじゃないんだよなあ、と思った)

 

テーマと章立てのうまさが引き立てあって文句なく面白いが、ここが作者の限界ではないと思う。連続して読みたい内容でもないが今年は頑張って追いかけていきたい。