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伊藤くん A to E  (ねこ3.7匹)

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柚木麻子著。幻冬舎文庫

 

美形でボンボンで博識だが、自意識過剰で幼稚で無神経。人生の決定的な局面から逃げ続ける喰えない男、伊藤誠二郎。彼の周りには恋の話題が尽きない。こんな男のどこがいいのか。尽くす美女は粗末にされ、フリーターはストーカーされ、落ち目の脚本家は逆襲を受け…。傷ついてもなんとか立ち上がる女性たちの姿が共感を呼んだ、連作短編集。(裏表紙引用)

 


柚木さんの文庫新刊。噂には聞いていたが、いやはや、伊藤くん。凄い人物だったな。

 

A 伊藤に長い間片思いするが、粗末に扱われ続けるデパート勤務の美人
B 伊藤からストーカーまがいの好意を持たれてブチ切れる、バイトに身の入らないフリーター
C 伊藤の童貞を奪う、男が切れたことのないデパ地下ケーキ店の副店長
D 処女を理由に伊藤にふられるも、売れっ子放送作家を初体験の相手に選ぶ大学職員
E 伊藤が熱心に勉強会に通う、すでに売れなくなった33歳の脚本家


「伊藤くん」という、顔が良く金持ちだがモラトリアム真っ最中、自意識過剰、幼稚、無神経の3拍子揃った脚本家志望のフリーターに振り回され続ける女性たちを描いた連作短編集。この伊藤(呼び捨てで十分)がとことんまでに最低最悪のクズで、読んでいてゲンナリしてしまった。ハンパにモテるから余計にイラつかせるんだろうなあ。若い頃は特に、人を見る目というのはなかったりするし、無駄な時間を無駄な人間と過ごしたりしてしまったりするものだけど。限度ってものがあるなあ。

 

と言うのも、女性側にも問題があるパターンが多くてその方がウンザリ。どんだけ美人でモテても、伊藤のような男に振り回される時点でお里が知れるのではないかと思う。それぞれが伊藤にぞんざいに扱われたり付きまとわれたりしながら、やがては覚醒し前に進んでいく話は清々しさもあるが、そうではない話もあるからなあ。最初好きだったクズケンもだんだん化けの皮が剥がれて情けなく見えて来たし。

 

チョコチョコと共感出来る部分がある人間の醜い感情も、今回ばかりはやり過ぎ感がキツかった。文章は面白いから読んでしまうっていうのはある意味中毒かもしれないが。