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人質カノン  (ねこ3.8匹)

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宮部みゆき著。文春文庫。

 

「動くな」。終電帰りに寄ったコンビニで遭遇したピストル強盗は、尻ポケットから赤ちゃんの玩具、ガラガラを落として去った。事件の背後に都会人の孤独な人間模様を浮かび上がらせた表題作、タクシーの女性ドライバーが遠大な殺人計画を語る「十年計画」など、街の片隅、日常に潜むよりすぐりのミステリー七篇を収録。(裏表紙引用)

 


宮部さんの旧作を。タイトルが良い感じだなと思って気になっていた作品。

 

「人質カノン」
夜のコンビニで起きた強盗事件のお話。意外な真相もいいが人質同士の交流がほっこり。

 

「十年計画」
恋人に酷いフラれ方をした女性が相手の男性を殺そうとしていると聞かされ…。憎しみが十年も続いたとしたらそれは勿体ない時間の使い方かも。

 

「過去のない手帳」
電車の網棚に忘れられた雑誌の中に挟まれていた手帳を巡る出来事。現代なら考えられない展開かな?あれこれ持ち主の容姿を想像していた少年が、現実を知ってからの心の変化に苦笑。

 

「八月の雪」
いじめによる事故で片足を失った少年が、祖父の残していた遺書を見つける。すっかりやる気のなくなっていた少年が立ち直っていく流れが美しい。

 

「過ぎたこと」
調査会社にやってきた少年の悩みとはいじめだった。続けていじめが題材なので同一人物かと思った。ひと昔前と今では実態が違うからなあ。

 

「生者の特権」
いじめに遭っている少年と、自殺願望のある女性の出会いのお話。深夜の学校の恐怖が表現豊かでゾクっとする。全く普段接点のない同士の交流というのが良いね。復讐で読者がスカっとする、というような安易さがなくていい。

 

「濡れる心」
夫の仕事の都合で高く買ったマンションを売るはめになった主婦。だがオープンハウスの日に酷い漏水が――。主婦の僻んだ心や苛立ちがうまく表現されていて、桐野夏生を少し優しくしたような感触。幸せに見える人にも色々と闇があるという定番の題材。


以上。

 

収録数が多いので簡単な感想を。というのもあるが、似たような展開、テーマのものが多かったということもある。どれも小説のお手本のような、「誰もが褒めざるを得ないイイ話」だなあと感じた。宮部さんだから、もっとひりつくようなものや読後じわーっとくるものがあっても良かった。