すべてが猫になる

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私にふさわしいホテル  (ねこ3.8匹)

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柚木麻子著。新潮文庫

 

文学新人賞を受賞した加代子は、憧れの〈小説家〉になれる……はずだったが、同時受賞者は元・人気アイドル。すべての注目をかっさらわれて二年半、依頼もないのに「山の上ホテル」に自腹でカンヅメになった加代子を、大学時代の先輩・遠藤が訪ねてくる。大手出版社に勤める遠藤から、上の階で大御所作家・東十条宗典が執筆中と聞き――。文学史上最も不遇な新人作家の激闘開始! (裏表紙引用)

 


連作短編集でありながら、長編のような体裁を持った作品。作家を目指す加代子が、大御所作家や書評家、新人賞同時受賞のアイドルなどなど、様々な敵と闘いながら大成していく物語。出版界の裏事情なんかも交えているので本好きとしては興味深いものがあったし、作家が実名で登場するのにも驚く。最初はヒロインの無鉄砲で自信家で欲深い性格を嫌いだと思って読んでいたが…スポットライトが当たらないなら自分からライトの前に飛び出せばいい、とかそういうパワーで押し切るところにだんだん惹かれて行った。成功してなおこの野心を持ち続けるのは難しいと思うけど、加代子なら一生満足しなさそう…^^;

 

原稿を落とさせようとメイドの扮装でホテルの部屋に乗り込んだり、鮫島賞が欲しいあまり家庭を乗っ取ろうとしたり、アイドルへの何十年も前の屈辱を成功してからもなお晴らしたりとバイタリティが凄い。創作と言えど汚れきっている…(笑)。新人賞に何の政治力も働いていないとは私は信じていないし、綺麗事で本は売れない。それを裏付けるエピソードの最たるものが、加代子が書店で万引き犯を捕まえたあとの顛末に現れていると感じた。

 

いい本も目に留まってナンボだとは思うけどね。