すべてが猫になる

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悪魔を憐れむ  (ねこ3.9匹)

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「その時間、先生が校舎の五階から跳び降り自殺しないように見張っていてほしい」。大学OBの居酒屋店主からそう頼まれた匠千暁は、現場で待機していたにもかかわらず、小岩井先生をみすみす死なせてしまう。老教師の転落死の謎を匠千暁が追い、真犯人から「悪魔の口上」を引き出す表題作。平塚刑事の実家の母屋で十三年間にわたって起こる、午前三時に置き時計が飛んできてソファで寝ている人を襲う心霊現象の謎と隠された哀しい真実を解く「無間呪縛」。男女三人が殺害された現場から被害者二人の首と手首だけが持ち去られ、それぞれ別の場所に放置されていた事件の、犯人の奇妙な動機を推理する「意匠の切断」。ホテルの九階に宿泊する元教職者はなぜエレベータを七階と五階で降りたか?…殺人事件の奇想天外なアリバイ工作を見破る「死は天秤にかけられて」。ミステリの魔術師・西澤保彦の、四つの珠玉ミステリ連作集。(紹介文引用)

 

 

タックシリーズ第10弾出たよ!!

 

ということで、前作「身代わり」から約4年ぶりの新刊。安槻大学を卒業したタックたち4人(ボアン先輩はギリギリ)。それぞれウサコは結婚(!!)、タックはフリーター(オイ)、タカチは東京で就職(遠距離恋愛!)、ボアン先輩は女子校講師の道へ。久しぶりすぎて今までの内容を忘れてしまっているのだが、どこまでが既出のネタだっけ。ボアン先輩女子校ってのはなんとなく記憶にあるが。よく出てくる平塚刑事七瀬刑事佐伯刑事って全く覚えてないぞ。

 

とりあえず各4篇の感想を。

 

「無間呪縛」
平塚刑事の頼みで、彼の実家で起こる謎の怪異を調べることになったタックとウサコ。さらにタックはタカチに手紙で相談された別の事件も解き明かす。何の関係もない二つの事件、「実は繋がっていた」パターンではなく、論理が同じという。ウサコはここで結婚相手と運命の出会いを。それにしてもこの結末、西澤作品ぽいなあ…これいる?^^;

 

「悪魔を憐れむ」
タック行きつけの居酒屋の店主・篠塚に頼まれ、彼の通っていた大学の恩師・小岩井の自殺を防ぐことになったタック。真相が二転三転しめまぐるしい。トリックそのものではなく人間はこういう扱いを受け続けるとどうなるか、こういう状況の時にどう動くのが自然かに重きが置かれる。内容は読み応えがあったが、タックはタカチが東京へ行ってしまって「寂しくて寂しくてたまらない」そうだ。そうですかそうですか。

 

「意匠の切断」
タカチが休みを利用して帰ってきた!タックがホテルの部屋に入ってるよ!(うぉぉ)。そんな大事な時に佐伯刑事がタックに持ってきた話は、連続遺体切断事件という血なまぐさいものだった――。前2作が中編並の長さだったことに比べて、こちらは一般的な短編の長さで読みやすい。西澤作品の論理ってしっかり読まないと置いて行かれるからね。

 

「死は天秤にかけられて」
ボアン先輩登場!再会の場で漏れ聞いたある男の会話。タカチを迎えに行った時、ホテルのロビーで見た男の不審な行動とどう繋がるのか。エレベーターで様々な階数から降りてくる男と、12階で起きた女性の転倒事故。複雑なトリックだが人間心理をうまく突いている。ところでボアン先輩の知人のエピソード、女子校の教師が女子生徒といい関係になったがあとでフラれたってやつ。ボアン先輩は頭を抱えてたけど、これは凄く良く分かるなあ。要は女子しかいない狭い空間ではいい男に見えても、いざ一般に溶け込んだら普通のつまらない男にしか見えなくなったってことでしょ。私女子校だったけど、若い男の先生って例外なくモテてたもんな。


以上~。どれも面白かった!事件そのものは独立しているのでシリーズを読んだことがないという人でも大丈夫。だけど結構頻繁にキャラクターの過去や事件が語られるので、そういう人がこの作品を完全に楽しみ理解することは難しいと思う。
やはり西澤作品は人間をこれでもかと掘り下げるので、その心理に共感、同調するかどうかによって感想は変わってくるかも。それにしても、タックとタカチの関係、もっと進まないかなあ~。他作家のシリーズキャラに比べたら進んでいる方だとは思うけど(火村さんの過去とかいつ判明すんねん^^;)、この作品ではそれほど進展なし。そして2人が悩んでいる家庭の事情をすっかり忘れている自分。。。あとがきに詳しくシリーズの解説や時系列が載っているのでありがたい。