すべてが猫になる

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代償  (ねこ4匹)

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伊岡瞬著。角川文庫。

 

平凡な家庭で育った小学生の圭輔は、ある不幸な事故をきっかけに、遠縁で同学年の達也と暮らすことに。運命は一転、過酷な思春期を送った圭輔は、長じて弁護士となるが、逮捕された達也から依頼が舞い込む。「私は無実の罪で逮捕されました。どうか、お願いです。私の弁護をしていただけないでしょうか」。裁判を弄ぶ達也、巧妙に仕組まれた罠。追いつめられた圭輔は、この悪に対峙できるのか?衝撃と断罪のサスペンスミステリ。(裏表紙引用)

 

 

初読み伊岡さん。評判を聞いて半信半疑で手を出してみたがこれ本当に面白かった。

 

テーマは「更生の余地のないどうしようもない人間とそれに巻き込まれた人々の悲運」で、ここには本当に生きていく価値のなさそうな悪逆非道な人間が複数出てくる。しかも、自らの手を汚さないタイプ。主人公の圭輔はごく普通の、どちらかと言えば恵まれた環境に身を置く少年だったが、親戚で同級生の達也を一時的に家で預かってからその運命は一変した。家は火事で半焼し、両親は死亡。生き残った圭輔は、不本意ながらも達也の家に引き取られることに。最低最悪の後見人・道子と気の合わない達也、頼りにならないその父親。どうやら道子と達也は親子で姦通しているらしいし、道子は圭輔のお金を使っているようだし、日々奴隷のような生活を強いられる。

 

ああもう、読んでいてイライラムカムカが止まらなかった。生まれつきの悪魔なのか、育てた環境なのか、その両方な気がする。犯罪を犯しながら反省どころかそれを面白がり、自分は常に安全圏。圭輔は世話になっている引け目と、未成年ゆえの無力さゆえに諦めの境地に至っているし。そこで気の置けない友人が出来たのだけが救いだが、この友人たちもまた達也の毒牙に――。

 

第二章からはさらに一転、20半ばの圭輔は見事弁護士となった。過去は忘れ、仕事も順調だった矢先にまたあの親子からの接触が――。あ~~~もう、なんで会いに行っちゃうかなあ。まあ、弱みがあるから仕方ないのだけど。やはり達也はロクな大人になっていないし。達也と道子に再び振り回されながらも、友人と共に奮闘する圭輔。がんばれ、がんばれ。

 

結末はもちろん端折るが、最後まで目が離せない展開。まとまりもいいし、文章も読みやすいし、描写に引っかかりもない。内容が内容だけに読むのが辛いところもあるが、確かな力量をこの作家さんに感じた。貫井さんや薬丸さんがお好きな方、試してみてはいかがだろうか。