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モノグラム殺人事件/The Monogram Murders (ねこ3.8匹)

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ソフィー・ハナ著。山本博・大野尚江訳。ハヤカワ文庫。

 

ポアロが夕べを過ごしていた珈琲館に、半狂乱の女が駆け込んできた。誰かに追われている様子。事情を聞くと、女は自分は殺される予定なのだと震えながら答える。同じ頃、近くのホテルでは三つの死体が発見されていた。それぞれの口には同じカフスボタンが入れられていて…。“名探偵ポアロ”シリーズ、公認続篇。(裏表紙引用)

 


説明はいらないと思うが・・・アガサ・クリスティの人気シリーズ・エルキュール・ポアロ「公認」(ここ重要)続編。文庫デザインもクリスティと同じになっている。一体このソフィー・ハナってなんなの?と思ってあとがきを読めば、もちろんクリスティの大ファン。元はスリラー作家でそこそこのベテランらしい。頑なに他人による続編を拒んでいたというクリスティだが、このソフィー・ハナにそれを許した(孫が)という心境の変化はイマイチこのあとがきからは読み取れなかった。続編を描かせないために「カーテン」をああいう結末にしたと言うし。

 

ではここに出てくるポアロは一体いつのポアロなの?と誰しも疑問に思うと思うが、これはポアロが沈黙していた「青列車の秘密(1928)」~「邪悪の家(1932)」までの期間、1929年ということで解決している。そしてポアロの友人ヘイスティングスは登場しておらず(「邪悪の家」までアルゼンチンに移住しているため)、代わりにキャッチプールというスコットランドヤードの刑事が活躍する。

 

で、読者が1番気になるのは「さて、内容はポアロっぽいのか」。それについて、読んでみての私の印象は「ポアロってこんな奴だっけ?」だ。ホテルの各部屋で3人の男女が毒殺され、口の中にイニシャルの入ったカフスボタンが詰め込まれているという、事件としてはクリスティらしい謎多きものだし、人々の心理を掻き出すことにより犯罪者を追い詰めるという手法もこれまたそれっぽく、なるほどこの作家はそれなりだなと思わせるに足る実力はあると思う。

 

ポアロの公認続編として楽しもうと思ったが、クリスティには絶対にない真相のややこしさがハンデになった。AがBでDがEであいつが実はあれででもあいつは本当はそれでと、ザっと読んだだけではわけがわからない。クリスティで後半これほど名前を確認して読まされることってないぞ。もうちょっとシンプルなら途中までの評価は高かったのだが。今後次の作品が邦訳される予定だと聞くが、まあしばらくお付き合いはしてみるつもり。