すべてが猫になる

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ジョイランド/Joyland (ねこ3.9匹)

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スティーヴン・キング著。土屋晃訳。文春文庫。

 

海辺の遊園地、ジョイランド。彼女に振られたあの夏、大学生の僕はそこでバイトをしていた。そこで出会った仲間や大人たちとすごすうち、僕は幽霊屋敷で過去に殺人があったこと、遊園地で殺人を繰り返す殺人鬼がいることを知る。もう戻れない青春時代の痛みと美しさを描くキングの筆が冴え渡る!感涙必至の青春ミステリー。(裏表紙引用)

 


キングの新刊が文庫で発売されたということでテンションの上がったファンは多いだろう。しかも作品世界にピッタリなノスタルジックな表紙。やっぱホラーといえば遊園地だよね。

 

とは言え、本書は純粋なホラー小説ではない。もちろん幽霊は出てくるのだが、これは平凡な大学生デヴィンがひと夏に経験した青春物語と言ったほうが的確かもしれない。

 

最愛の彼女との別れ、初めての遊園地でのバイト、毎日見かける車椅子の少年とその母親、そして新しい恋。別れ。若者が経験すべきその全てがキングの叙情溢れる筆致でみずみずしく描かれている。失恋の傷みや初体験の興奮このあたりの描写は本当にさすがで、誰しもが自分の「あのころ」に思いを馳せるのではないだろうか。凧揚げや初めての遊園地など、子ども時代にだけしか感じられない特別な体験がここにある。

 

自分が特に好きだったのはデヴィンが着ぐるみを着て子どもたちの人気者になるところで、そここそが空っぽだったデヴィンが大人への階段を上り始めた瞬間だと思った。反面、殺人鬼の正体については個人的にショックでもあり。そして嫌いだと思っていた人物の真の顔が浮き彫りになり、デヴィンは人間というものの複雑さを思い知ることになった。さてジョイランドでの経験を経てデヴィンがどういう大人になるのか――はもう読者には分かっているのだが、辛い結末含めて、これを悲しい物語にはしたくないな。