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金色機械  (ねこ3.7匹)

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恒川光太郎著。文春文庫。

 

時は江戸。ある大遊廓の創業者・熊悟朗は、人が抱く殺意の有無を見抜くことができた。ある日熊悟朗は手で触れるだけで生物を殺せるという女性・遙香と出会う。謎の存在「金色様」に導かれてやってきたという遙香が熊悟朗に願ったこととは―?壮大なスケールで人間の善悪を問う、著者新境地の江戸ファンタジー。(裏表紙引用)

 


恒川さんの文庫新刊は初のお江戸ファンタジー。手で触れただけで人を殺すことが出来る娘・遥香、他人の殺意が目に見える遊郭の創業者・熊悟朗。遥香遊郭の面接と称して熊悟朗と出会ってから、2人の過去を遡っていく。その物語には、どんな場所にもいつでも現れ、世代を越えて生き続ける「金色様」が登場する。正体は分からないが、人に仕え、殺しても死なず、人並み外れた能力がある。その存在がロボットみたいで、時代や雰囲気とのアンバランスさがあってかえって面白い。

 

長い過去の物語だが、偉い者が人を斬り罰されず、攫われ娘が慰みものにされる悪行がまかり通り、つくづく理不尽な時代だなあと思う。こういう設定、時代ものはどうしてもそこにイライラしてしまうんだなあ。たとえ救われたとしても。能力を持つゆえの苦しさ、貧乏ゆえの悲しさは普通の人間にはどうしようもないし。金色様の存在だけが癒しになったが、結局復讐を遂げても誰も彼もが虚しいだけのような。このお話が悲しければ悲しいほど、恒川さんの日本的で美しい世界観とピッタリだったけども。まとまりの良さや雰囲気作り、設定も含めて、恒川作品ではかなり出来の良いほうだと思う。私はちょっと、こういう辛いお話は苦手だな。