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オーブランの少女  (ねこ4匹)

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深緑野分著。創元推理文庫

 

美しい庭園オーブランの管理人姉妹が相次いで死んだ。姉は謎の老婆に殺され、妹は首を吊ってその後を追った。妹の遺した日記に綴られていたのは、オーブランが秘める恐るべき過去だった―楽園崩壊にまつわる驚愕の真相を描いた第七回ミステリーズ!新人賞佳作入選作ほか、異なる時代、異なる場所を舞台に生きる少女を巡る五つの謎を収めた、全読書人を驚嘆させるデビュー短編集。(裏表紙引用)

 


「戦場のコックたち」で話題の、深緑さんのデビュー短篇集。「フカミドリ・ノワキ」と読むそう。

 

「オーブランの少女」
美しい庭園・オーブランに住む2人の老婆。片足のない姉と会話の出来ない妹、そして発見された謎の老婆の死体。異国情緒漂う世界観に加えてミステリアスな設定。サナトリウムに隔離された傷害を持つ少女たち。他者が過去を振り返り推理を組み立てる構成で完成度は高い。これが作者の初めて描いたミステリ・・・?驚きだ。

 

「仮面」
雪の吹雪く夜に死んだ富豪の老婆。医師はメイドと協力し老婆を殺害したのだが――。顔が無残に潰れたメイドと美しい義理の妹。女というものはいずれも魔性なのだなあと実感してしまう作品。

 

「大雨とトマト」
ある豪雨の日、しがない料理屋を訪れたのは常連客の男と、見慣れない少女だった――。ここで初めて日本が舞台となるお話。少女の正体を明かし方と、常連客の秘密との絡め方が実にうまい。それにしても、世の男が一番怖がる爆弾持って来たな、この少女^^;

 

「片想い」
同性愛をテーマにしたお話で、またしても舞台は日本。まだ未熟な少女たちの無垢な気持ちがぶつかりあって痛々しくも羨ましくもある。正体暴きがテーマとなっているが根本にあるのは友情かも。ヒロインがカッコイイな。

 

「氷の帝国」
独裁的政治の恐ろしさが伝わるお話。人間の愚かしさがイヤというほど訴えられると同時に、人が人を想う気持ちの強さをも対極に表現されたお話。


以上。一言で言うと、とんでもない新人が登場したなという印象。個人的には文章が読みづらくて最初だけ戸惑ったのだが、軌道に乗り初めてからはそれぞれのお話に入りやすくなった。無国籍風の作風といい、タブーの領域に踏み込むモチーフ選びの上手さといい、読書家にこういうの好きな人かなり多いと思う。第二の米澤穂信だと言ったら言い過ぎだろうか。間違いなく今後の小説界を荒らす存在になると思うが。