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幽談  (ねこ3.7匹)

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京極夏彦著。角川文庫。

 

怖いものとは何だろう。本当に怖いものを知るため、とある屋敷を訪れた男は、通された座敷で思案する。完全な暗闇の世界、思いもよらない異形のモノ、殺意を持った猛獣や殺人鬼、己が死ぬこと、幽霊―。不安でも嫌悪でも驚きでも不思議でもなく、純粋な怖いものを。恐怖に似たものではない、真実の“こわいもの”を知るという屋敷の老人が、男にさし示したものとは。「こわいもの」を含む、妖しく美しい、幽き8つの物語を収録。(裏表紙引用)

 


京極さんの幽霊談ばかりを集めた短篇集。ずっとこのシリーズは気になっていたので読めて良かった。薄いのでサクっと。

 

「手首を拾う」
離婚した男が思い出に再び訪れた旅館。そこで男は手首を拾う体験をしたが――。怖いのは怖いのだけれど、拾った手首がまるで生きているような見かけだというのが不気味さを増していた。切断面がグロいとかよりずっと怖いような。

 

「ともだち」
死んでしまったともだちが見えてしまうお話という普通な感じではあるけれど、それをスっと受け入れているあたりが読みどころかなと。淡々とした心情が雰囲気を引き立てている。

 

「下の人」
ベッドの下にずっと人(みたいなもの)がいて主人公が対応に困るというお話。この、ぐにゃぐにゃしてお饅頭のような形容の人がなんだか可愛くて萌えた(笑)。ベッドを移動したあとのねじれ加減とか最高。

 

「成人」
ある作文からその謎を解いていくお話。これは実話なのか創作なのか、から始まり、語り手がA君とB君の正体から解き明かしていく。なぜここまでこだわるかというところが肝。ゾっとする結末のセリフがいい。

 

「逃げよう」
学校の帰りに変なものに追い掛けられる少年のお話。その変なもの、よりは少年のお婆さんの描写が凄かったと思う。本当に匂いや姿かたちまで思い描けてしまうあたりが。

 

「十万年」
自分は本当に他人と同じものが見えているのかと自問し続ける男の人生を描いた物語。京極さんらしい、まるで屁理屈のような問答が続く。最後のセリフはキレがある。

 

「知らないこと」
奇行を繰り返す隣人に困る家族の物語。ある仕掛けが施されているのだが、なくても充分隣人は不気味だったし、1番怖いのは分かりやすい変人ではない、と読み取れた。

 

「こわいもの」
こわいもの、とは何か――。引き出しの中に死体があったら怖いかどうか、霊を信じている人が霊を見ればそれは怖いとは言わない、といった定義が面白く読ませる。


以上。全て一定以上の面白さがあり、特に「下の人」「成人」「十万年」あたりが好みだった。現代でありながらも古風な雰囲気が漂っていて、さらに作者らしい薀蓄も楽しめるいいシリーズなのではないかと思う。