すべてが猫になる

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暗くて静かでロックな娘  (ねこ4.2匹)

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目と耳が不自由な美女と、何の取り柄もない男の純愛を描く表題作。ただの筋肉バカとなってしまった元アメフト選手の兄を持てあます弟の苦悩(「兄弟船」)。過去に人身事故を起こして人生を狂わせた男がたどる不幸の連鎖(「悪口漫才」)。罵倒しあう老夫婦が経営する名物ラーメン店が陥る絶望と希望(「反吐が出るよなお前だけれど…」)他、底辺を這う人々の、救いのない日常を映し出す全10編を収録。(裏表紙引用)

 


平山さんの文庫新刊。10編収録の短篇集で、相変わらずの暗い、酷い、どんよりの暴力と性と絶望入り混じる最悪作品集となっている。過去、くだんの「独白するユニバーサル横メルカトル」以降パンチが弱くなって来たか?と思っていたが、復活とまでは言えないまでも久々に胸を熱くさせる作品に出会えた。

 

完全な日本人であるかどうかが重要な世界で窮屈に生きる男の「日本人じゃねえなら」、恋人を身障者に奪われた男の歪んだ決断「サブとタミエ」、親無しきょうだいの家に居候する男と子どもたちの残酷な結末「兄弟船」、我が子の悪戯が原因で人を轢き殺した男が出所後また少年を単独で轢き殺し死体を隠蔽する「悪口漫才」、火葬場で働く男が見た毎日1人ずつ死んでいく家族「ドブロク焼き場」、その名の通り地獄のような味のラーメンを出す下品夫婦の物語「反吐が出るよなお前だけれど…」などなど、振り返ると気持ちがグッタリするような強烈話のオンパレードだ。

 

中でも酷かったのは子どもを虐待する「おばけの子」。読んだことを後悔させてやると言わんばかりの痛みと悲しみ、そして救いのなさはジャック・ケッチャムの「隣の家の少女」に通じるものがあると思った。。

 

どれもこれも悪夢でしかないが、他にない異国籍風の雰囲気と先の読めない壊れ加減が夢中にさせる。読む者の心は怒りと憎しみと許しで満たされる。グロさと刺激の強さだけで突っ走っているわけではないのだ。そのパワーは「自分は過激なものが結構好きで~」と思っている読者を「すいませんでした、自分なんてまだまだでした」と思わせるのに充分ではある。私がキャッチコピーをつけるならベタだが「読むな、キケン」だ。