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長い廊下がある家  (ねこ3.7匹)

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限界集落を調べていた学生が、山奥の廃村に辿り着いた。そこで彼は「幽霊の出る家」を取材する三人の男女と出会う。地下に別の家と繋がるトンネル状の長い廊下が。中央には扉があり、その西側で死体が発見された。容疑がかかる三人は犯行時刻、東側の家にいて、鍵のかかった西側には行けない。臨床犯罪学者・火村英生がトリックを華麗に暴く!表題作ほか全4編。(裏表紙引用)

 

 

火村シリーズ第19弾(ベスト除く)。

 

実写化決定ということで、お祝いに積ん読していた火村ものに手を出すことにした。それにしても、そんなにこのシリーズが人口に膾炙していたとは知らなんだ。本ミス好きの看板を背負っている方以外のところで記事をお見かけしたことがないような。そのうち麻耶さんもドラマ化のお話来るかもね。

 

さておき、本書は4編収録の短編集。一冊通じて一貫したテーマのない、普通に火村シリーズらしく安定した印象。

 

「長い廊下がある家」
英都大学社会学部生の日比野が限界集落のフィールドワーク中に巻き込まれた事件。迷い疲れたどり着いた廃村で出会ったマスコミ関係者。幽霊が出る家を取材しているというのだ。火村&アリスは後半で登場。西と東に分かれた長い廊下がある家で起きた奇妙な殺人事件に挑む。アリスの突飛な推理はなかなか面白かったけれど、既出感あり。犯人がこのパターンであった場合に、条件反射のようにガッカリしてしまう自分がいる。。。面白かったけれども。

 

「雪と金婚式」
結婚50周年を迎えた、仲睦まじい夫婦。どうしようもない夫の弟が離れで同居していることだけが頭痛の種。そしてある雪の日、弟が他殺体で発見される。トリックに使った道具が突飛で驚く。記憶を一部失ってしまった夫の存在が鍵。ホッコリする終わり方で良かった。

 

「天空の眼」
アリスが隣人の女性に相談されたのは、不気味な心霊写真について。心霊を信じるか信じないかという議論に始まり、アリスが殺人事件に巻き込まれてからの顛末もじっくり描かれている。トリック云々ではなく、これはファンにとっての異色作である。アリスが完全なる主役となり、事件を解決するのだから。(これがどんなに凄いことか。いつもは火村のために間違った推理を示し彼に何が行き止まりかを提示する役割)ミラクルを起こしながらも、「やったぜ俺!」と喜ぶでなく他人の心情を慮るアリスはどこまでもアリスらしかった。

 

「ロジカル・デスゲーム」
これも異色作。火村さんがある自殺願望者に騙され、死を賭けたゲームを強制されるのだから。毒の入ったグラスを選ぶという一見単純な、運試しのゲーム。火村さんの手にかかると数学的で論理的な確率の問題になるというところか。確率の話は難しかったけれど、グラスを増やす例、というのを読んで理解した。なるほどねえ。

 

以上。前半2作はザ・火村シリーズって感じで安心して楽しめる。後半2作は異色作で、これまた他になかった味わい。個人的には後半の方を気に入った。最近有栖川作品でお気に入りがなかったのだけれど、本書はかなり好きな部類だな。やっぱ普通がいいよ。