すべてが猫になる

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シンデレラの罠/Piege pour Cendrillon (ねこ4匹)

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セバスチアン・ジャプリゾ著。創元推理文庫

 

わたし、ミは、火事で大火傷を負い、顔を焼かれ皮膚移植をし一命をとりとめたが、一緒にいたドは焼死。火事の真相を知るのはわたしだけだというのに記憶を失ってしまった。わたしは本当に皆の言うように大金持ちの伯母から遺産を相続するというミなのか?死んだ娘がミで、わたしはドなのではないのか?わたしは探偵で犯人で被害者で証人なのだ。ミステリ史上燦然と輝く傑作。フランス推理小説大賞受賞作。 (裏表紙引用)

 


フレンチ・ミステリーの傑作ということで、分かりやすくなったという新訳版を読んでみた。この作品は、「わたしはその事件の探偵です。そして証人です。また被害者です。さらには犯人です。わたしは四人全部なのです。いったいわたしは何者でしょう?」という、人を喰ったキャッチコピーが有名らしい。なんだ、語り手が誰だかわからない作品なら他にも色々あるじゃないか、と思っていたら間違い。本当に結局最後まで誰だかわからないのだから。

 

作品内では、章ごとに「わたし」のナレーション体であったり、一人称であったり、はたまた三人称であったりもする。その章題も読者の興味を惹く。「わたしは殺してしまうでしょう」「わたしは殺しました」「わたしは殺したかもしれません」「わたしは殺すでしょう」「わたしは殺したのです」「わたしは殺します」「わたしは殺してしまいました」と、他では見られない趣向が見られる。変わったものが好きなら、もうこういう小説を読むこと自体が至福の時間になるかもしれない。

 

登場人物の愛称が「ミ」「ド」であることに作品の個性づけ以上の理由はなさそうだが、こちらも一風変わった趣きを作品内で出すことに成功している。語れば語るほどわからない、殺人の真相。読みやすいが難解。全ての登場人物が求めるのはお金か愛情か。人間関係の機微を楽しめる、それを真相のヒントにも活用出来る、様々な読み取り方が出来る――。ハッキリしないものが苦手な向きにはオススメしないが、ミステリ好きなら作者の稚気ごと受け入れてみるのも一興だろう。