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ランチのアッコちゃん  (ねこ4匹)

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柚木麻子著。双葉文庫

 

地味な派遣社員の三智子は彼氏にフラれて落ち込み、食欲もなかった。そこへ雲の上の存在である黒川敦子部長、通称“アッコさん”から声がかかる。「一週間、ランチを取り替えっこしましょう」。気乗りがしない三智子だったが、アッコさんの不思議なランチコースを巡るうち、少しずつ変わっていく自分に気づく(表題作)。読むほどに心が弾んでくる魔法の四編。読むとどんどん元気が出るスペシャルビタミン小説! (裏表紙引用)

 


柚木さん2冊目~。色々オススメいただいたのだが、柚木さんと言えばやはりコレからなのだろう、と予想して。200ページほどなのであっという間に読めた。

 

「ランチのアッコちゃん」
派遣社員のOL三智子が、カッコいい上司であるアッコさんと一週間ランチを取り替えるという凄い発想のお話。ランチと引き換えに三智子はお弁当をアッコさんに作って持っていくという。これ逆に大変じゃね?と思うが、三智子が料理好きなので楽しんでいる模様。毎日色んな食事をして、色んな人間と出会って、失恋に落ち込む三智子が立ち直り人生を切り開いていくお話。何をランチごときで大げさな、と思うなかれだ。食事って大事よ。人間って一つ良くなるとすべてがいい方に作用するものだから。

 

「夜食のアッコちゃん」
なんと、三智子の派遣先がつぶれてしまい別の派遣先へ。そこで繰り広げられるバレンタインチョコを巡るOLたちの派閥バトルに悩まされる三智子。そして久しぶりに出会ったアッコさんは、ポトフの移動販売を始めていて、というこれまた凄いお話。どこまで行くんだこの2人。柚木小説を読んでいてよく思うことがある。「こんなにうまくいくかいな」という展開だ。だが「こうなればいいな」を地で行く前向きさは確実に読者に何かを教えてくれる。

 

「夜の大捜査先生」
なんと、三智子もアッコさんもほとんど出て来ない。主人公は高校生時代にヤンチャなギャルだった30歳の女性。結婚を焦り合コンを繰り返しているところへ、かつての恩師に出くわし――というお話。時代の変化を盛り込みながら、つまらない自分になってしまったと自虐する女性の「現在を肯定する」という心が自然に描かれている。これは染みる。

 

「ゆとりのビアガーデン」
ネット商社社長・豊田の会社に勤める佐々木玲美はまれに見る「使えないゆとり社員」だ。ある日玲美が大きなミスをしでかしたことから、玲美は退社。再会した玲美はなんと、豊田の会社が入るビルの屋上でビアガーデンを始めるという。これまたご都合のよいサクセスストーリーなのだが、痛快なお話。豊田が社員の現状を冷静に見つめるシーンや玲美の成功を素直に受け入れられない気持ちが描かれており、そこから心がほどけていく流れが見事だと思う。


以上。「ビタミン小説」の名にふさわしい良作ぞろい。もう少し若いころに読みたかった。現状の自分には当てはまらないキャラクターばかりなので。下2作がほとんどアッコさん関係ではなかったのは残念だが、続編までじらされているのかと思うと楽しみが募る。今年一番の新規開拓・当たりの作家さんだなあ。