すべてが猫になる

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光  (ねこ5匹)

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利一が小学生だった頃、仲間といれば毎日が冒険だった。真っ赤に染まった川の謎と、湖の人魚伝説。偽化石づくりの大作戦と、洞窟に潜む殺意との対決。心に芽生えた小さな恋は、誰にも言えなかった。懐かしいあの頃の記憶は、心からあふれ出し、大切な人に受け渡される―。子どもがもつ特別な時間と空間を描き出し、記憶と夢を揺さぶる、切なく眩い傑作長編小説。(裏表紙引用)

 


ファンの間で「道尾版スタンド・バイ・ミー」と呼ばれている作品らしい。メンバーが1人多いし死体を見つけないなどの違いがあるが、光のようにキラキラした青春の姿をありのまま描いた描写や、後半のハラハラドキドキする冒険譚と救いはまさにそう呼ばれるにふさわしい物だろう。

 

一見、この物語は短篇集のような構成になっている。第一章は清孝という祖母と2人暮らしをしている少年が犬殺しの疑いを掛けられるというお話でまとまっているし、第二章は町に伝わる女恋湖の人魚についての物語である。続く第三章、第四章ともそれぞれ利一たち少年グループの日常に起きた小さな出来事を描いている。

 

物語の様相が一変するのは中盤以降で、劉生という議員の息子を新しい仲間に加えたところから雲行きが怪しくなるのだ。彼らが巻き込まれた事件はまさにサスペンス。命の危険と闘いながら、仲間と手を合わせ立ち向かってゆく。犬のワンダの活躍や、清孝の祖母「キュウリー夫人」のカッコ良さも忘れてはいけない。「二度あることは三度ある!」には痺れたよばあちゃん(;>_<;。ここには「必要のない人間(犬)」は1人もいないのだ。


それぞれのお話のオチに共通しているのは、優しさの光だ。家族を想う心が招いた誤解、教師との一歩踏み込んだ対話、友人との別離。少年らしく、決して褒められたものではない行動も起こすしそれぞれ全員がいい子という訳でもない「普通」の子ども。日常というものは目を開いていれば必ず光が見えるのだというメッセージは、こういうどこにでもいる私たちの過去の姿にまさしくピッタリではないだろうか。ラストにちょっとした仕掛けが明かされるが、この要素はなくても構わなかったぐらい物語としての完成度は高い。学校の課題図書はコレじゃダメなのかいな。