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衣更月家の一族  (ねこ3.5匹)

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深木章子著。講談社文庫。

 

別居中の妻の潜伏先を察知した男が、応対に出た姉のほうを撲殺――110番通報の時点では単純な事件と思われた。だが犯人が直接目撃されていないうえ、被害者の夫には別の家庭があった。強欲と憤怒に目がくらんだ人間たちが堕ちていく凄まじい罪の地獄。因業に満ちた世界を描ききった傑作ミステリー! (裏表紙引用)

 


深木さん2冊目~。

 

平成8年に起きた、大学助教授衣更月辰夫の教え子との心中事件をプロローグとして物語は始まる。その後、一見それと関係のない一家の殺人事件がそれぞれ物語られるという体裁。

 

「廣田家の殺人」では、別居中の妻をストーカーしていた夫が、妻の姉を殺してしまうという事件。事件は一見単純に見えたが、指紋の位置や姉自身が複雑な夫婦関係を継続していたことなどが明らかになるにつれ、複雑化していくお話。

 

とりあえずの収束を見せてからの「楠原家の殺人」は、病院の事務員であった男が3億円を引き当て突然退職する。恋人と新しい豪華マンションで暮らし始めたかのように見えた男は、実は――。

 

次の「鷹尾家の殺人」は、あるニートの青年が、数々のしがらみにより両親を階段から突き落とし殺害してしまう。その事件から青年の人生はおかしな方向へ狂い始めた。。。


それぞれの話が、すべて「最初に見えていた状況」と違った方向へ進む。破滅していくしかない人々の、それぞれの人生はどこで交錯するのか――がこの作品の肝となるのだが、その解決編がなかなかの肩すかしを喰らわせてくれる。別に派手などんでん返しや斬新なトリックを仕掛けろとは言わないが、タイトルが「衣更月家の一族」なのだから、この真相や人間関係に全然驚けない。読者騙しがあるわけでもないし。言えば、作者が真面目なのだな。冒険をしない堅実さが、年配の作家らしいと言えばらしいか。解決編までのお話自体はとっても面白いのだから(つくづく不快な人物しか出てこないが)、もったいない作品だなあという言葉しか出てこない。実力派だとは思うけどね。