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オーダーメイド殺人クラブ  (ねこ3.8匹)

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クラスで上位の「リア充」女子グループに属する中学二年生の小林アン。死や猟奇的なものに惹かれる心を隠し、些細なことで激変する友達との関係に悩んでいる。家や教室に苛立ちと絶望を感じるアンは、冴えない「昆虫系」だが自分と似た美意識を感じる同級生の男子・徳川に、自分自身の殺害を依頼する。二人が「作る」事件の結末は―。少年少女の痛切な心理を直木賞作家が丹念に描く、青春小説。(裏表紙引用)

 


相変わらず面白い辻村さん。中盤以降ほぼ一気読み。今回は中二病をテーマにした、まさに辻村さんの本領が発揮されたすこぶるイタい青春小説。主人公のアンは彼氏も友だちもいてリア充グループに属しているが、クラス内のヒエラルキーカーストに悩まされ、猟奇写真を好み、犯罪願望があるというとってもとってもイタい女の子。そんなアンがクラスのグループから村八分にされ、母親にも相談出来ず、クラスの目立たない昆虫系男子・徳川に自分の殺害を依頼するというとってもとってもイタい展開。今まで誰もがやらなかった殺され方を望み、これからの中二病たちにとってのパイオニアになりたいと願うアン。自分に特別才能もなにもないからこそ、こういうことでしか存在をアピールできないと言うのだ。

 

そういう風に書くと苦笑ものだが、この中学生独特の思考や感性はその当時の自分も確実に持っていたものだ。(犯罪願望とかはなかったけど)クラスで教師から怒られたり、恥をかいたり、無視をされたりすることが宇宙の全てであり、その逃げ場は家庭にもどこにもないと思い込む。自分以外の大人やクラスメイトを全て頭が悪く、ダサイと信じて疑わない。自分はこんなにカッコイイ音楽を聴いている、こういう小説を理解出来る、こんな自立した考え方が出来る――。いわゆる「お前らとは違う」幻想である。大人になってこそそれが見事な勘違いであり、自分の周りで起きていた人間関係などアリンコほどのダメージもなかったとわかるが、それでもあのどうしようもなくヒリヒリとしたカッコ悪さの中に、今では絶対に手が届かないキラキラした宝物があったのは事実だ。イタい登場人物たちに苦笑しながらも、心のどこかで失ったものへの憧憬が生まれる作品だった。

 

「殺人依頼」というハードな内容のため、どういった展開を見せるのか気になって読んだが、意外なほど前向きで明るい方向へ進んだ。そうでなくては困るが。個人的にはこの時期のこういう関係はもう一生会えないからこそいいのだと思うので、ラストシーンはこうではないほうが好みであったが。