すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

ロスト・ケア  (ねこ3匹)

イメージ 1

葉真中顕著。光文社文庫

 

戦後犯罪史に残る凶悪犯に降された死刑判決。その報を知ったとき、正義を信じる検察官・大友の耳の奥に響く痛ましい叫び―悔い改めろ!介護現場に溢れる悲鳴、社会システムがもたらす歪み、善悪の意味…。現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに、圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る!全選考委員絶賛のもと放たれた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。(裏表紙引用)

 


初読みの作家さん。割と話題になっていたし、平積みされていたので挑戦。介護問題に切り込んだという内容に惹かれたのと、正義の検察官の「悔い改めろ!」という言葉が煽り文句となっていたのが印象深くて。

 

認知症などにより家族介護となり、お互いがお互いを憎み合うようになる家庭介護問題の呪いや、介護業界の裏側、制度改正の理不尽さ。いずれも驚きの内容であり、現場の人々が気の毒に思えるものばかりだ。介護の仕事が大変で薄給だというのは噂でぼんやり知っていたが、これでは人が続かないのも納得。高級老人ホームの待遇、存在にもビックリ。世の中金だなあと痛感するひとコマ。介護の仕事をしている男が、不正により会社が業界から退場させられてからの闇社会への転落ぶりも緊迫感があった。

 

だが、そこ止まりだったか。
薄っぺらなミステリーの仕掛けに絡め取られ、その奥底までは描ききれなかった模様。データの提示も熱心でよく取材されていると思うが、肝心の「人の心」「性善説」については、訴えてくるほどの何かはなかったと感じる。問題提起の立派さと物語の完成度が釣り合っていないというか。特に、正義感の強い検察官の主張が暑苦しい。本人の家庭は崩壊寸前で人殺しは絶対に悪だ、逃げだと豪語するこの検察官の言い分は盛大なるブーメランだと思うがどうか。