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ラバー・ソウル  (ねこ3.8匹)

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井上夢人著。講談社文庫。

 

幼い頃から友だちがいたことはなかった。両親からも顔をそむけられていた。36年間女性にも無縁だった。何度も自殺を試みた―そんな鈴木誠と社会の唯一の繋がりは、洋楽専門誌でのマニアをも唸らせるビートルズ評論だった。その撮影で、鈴木は美しきモデル、美縞絵里と出会う。心が震える、衝撃のサスペンス。(裏表紙引用)

 

 

井上さんの大長編ミステリ。

 

インタビューと手記で綴られた作品。語り手は、病気により酷い風貌となった内気なビートルズマニアの青年(鈴木誠)で、彼が1人の美しいモデルと知り合ったことによりストーカーに変貌する様が赤裸々に描かれている。撮影中に起こった恐ろしい死亡事故から、殺人事件へと発展するその悲しみと恐怖、追い詰められる女性の心理が丁寧に説明の形を取って表現されるという、淡々としながらも恐ろしいサスペンス作品だ。

 

世間評価が高いのは、最後に明らかとなる壮大な仕掛けによる物語の視界の広さと、ビートルズ曲と物語のリンクの上手さだと思う。個人的にももちろん面白く読んだが、ミステリを読みなれている読者にはそれほど斬新さはなかったかなと思う。読みながら、これは今見えている通りのものが真相ではないんだろうな、と思っていたし。出来は良いと思うのだが、同じことが人を変え手を変え繰り返し描かれてしまうため(仕掛けのヒントとしても必要な作業なのだとは思うが)、どうも無駄に長いのが気になった。まあそこまで考える読者はそれほどいないだろうと思うので、普通に万人向けにオススメだしビートルズファンが読めばさらに面白味があるのでは、と考える。章タイトルにある曲をかけながら読んでもいいね。