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体育館の殺人  (ねこ3.8匹)

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青崎有吾著。創元推理文庫

 

風ヶ丘高校の旧体育館で、放課後、放送部の少年が刺殺された。密室状態の体育館にいた唯一の人物、女子卓球部部長の犯行だと警察は決めてかかる。卓球部員・柚乃は、部長を救うために、学内一の天才と呼ばれている裏染天馬に真相の解明を頼んだ。アニメオタクの駄目人間に―。“平成のエラリー・クイーン”が、大幅改稿で読者に贈る、第22回鮎川哲也賞受賞作。待望の文庫化。(裏表紙引用)

 

 

青崎さん、初読み。「平成のエラリー・クイーン」と書かれているからには、私は読まなきゃね。クイーンらしく「The Black Umbrella Mystery」という英題も添えられ、登場人物紹介には生徒や教師のフルネームと、たいして区別の付けようもない所属部と何年生か、だけの説明がずらずらずらり。ぐえっ、これ全部覚える自信ないわー、と凹みつつ読み始める。

 

文章は平易で明るいタッチのため、読みやすい。それなりに性格を色付けされた生徒たちのため、人が覚えられないという心配も杞憂だった。そして重要なのがアニメオタクで金にがめつい探偵役・裏染。まあ高校生探偵に付けやすい個性なんてこんなものか。と上から目線で感想を抱きつつも、校内に住みついているというあたりは新鮮。

 

裏染の推理は極めて論理的で整頓されており、その頭脳は中盤で既に楽しめる。読者への挑戦状ももちろん挿入。全てに証拠がないという点が壊滅的に弱いが、実は本家クイーンもこんな感じだ。人間心理、つまり「常識的に人はこう動く」という決めつけのもと推理が構築されているのでどうしても正統派、地味――の域を出ない。驚くようなトリックや腰を抜かすどんでん返しが用意されているわけでもない。そう書くと批判のようだが、個人的には大変好みの作品であった。それほどこの探偵君に好意的だったわけではないが、エピローグで見せたある一面で彼を見直した。なんだかんだ、正義感は強いらしい。こういうストレートな本格ミステリはなかなか新作では読めないので頑張っていただきたい。

 

蛇足となるが、刑事と探偵はやはりちょっと仲が悪いぐらいのほうがいい。シリーズを重ねるにつれ親しくなっていくのが理想で、1作目で「次もよろしく頼む、報酬出すから」というのはいかがなものかな。そもそも高校生が1人頭約1万円なんてそうそう出せないと思うが。