すべてが猫になる

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無菌病棟より愛をこめて  (ねこ4.2匹)

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加納朋子著。文春文庫。

 

愛してくれる人たちがいるから、死なないように頑張ろう。―急性白血病の告知を受け、仕事の予定も、妻・母としての役割も、すべてを放り出しての突然の入院、抗癌剤治療の開始。辛い闘病生活の中で家族と友人の絆に支えられ、ユーモアを忘れずに人気ミステリ作家が綴る、たくさんの愛と勇気、温かな涙と笑いに満ちた闘病記。(裏表紙引用)

 


加納さんの初非小説。加納さんが急性白血病に罹っておられたというのは、ファンとしては恥ずかしながら1年ほど前に知った。闘病記という形で発表されたこの作品には、作者の涙ぐましい苦労と、少しのユーモアと、家族や友人の愛がたっぷり詰まっている。闘病記ということで身構えてしまいそうだが、申し訳ないくらいサクサクと読めてしまう。正直、読む時には加納さんは生きておられるのを知っているから出来たことだ。

 

この作品で感じたのは、やはり素敵な人には素敵な人が集まるのだということ。愛されるべき人というのは、たくさんの愛されるべき人々が造り出しているのだということだ。配偶者である貫井徳郎さんの献身や、ドナーとなった実弟さんの覚悟、友人の気遣い、医師や看護師、入院患者との触れ合い。もちろん加納さんの素晴らしい人柄を疑う気はミジンコもないが、こんな境遇になれば心に闇もあろう。時には悪魔も棲もう。そんな部分を作品では排除し、ひたすら周りへの感謝や病気への克服、趣味であるマンガやアニメ、スポーツ観戦などに重きを置き、さらには同じ病気で苦しむ人々のために日々を書き残している。

 

加納さんは病気でありながらも体重や筋肉を増やすためにストレッチをしたり(大丈夫なのかな^^;と心配になったけど)、口腔ケアを頑張ったり、味がわからなくても食べられるものを食べたり。もちろん個人差は絶対にあるはずで、これをやらなかったからそうなったんだ、というつもりはない。気力もなくなるくらい落ち込んでしまうことも絶対にあるだろう。だが、加納さんのたゆまぬ努力は、愛されている者ゆえのもの。自分が誰かにとっての大きな存在であること、ここに確かに自分の居場所があるということ。数年前の自分なら分からなかったかもしれない重大なことだ。加納さん、移植が成功して本当に良かった。「待ってくれている読者のことなど考えるヒマはなかった」そうだけど(笑)、新作よりもまずはお身体を大事に。