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殺人症候群  (ねこ4匹)

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警視庁内には、捜査課が表立って動けない事件を処理する特殊チームが存在した。そのリーダーである環敬吾は、部下の原田柾一郎、武藤隆、倉持真栄に、一見無関係と見える複数の殺人事件の繋がりを探るように命じる。「大切な人を殺した相手に復讐するのは悪か?」「この世の正義とは何か?」という大きなテーマと抜群のエンターテインメント性を融合させた怒涛のノンストップ1100枚。(裏表紙引用)

 


「症候群」シリーズの3作目、最終作。文庫700ページ強の大作だが、まるでヒーローもののようだった前2作は一体何だったのかと思うぐらいの力作に仕上がっている。読み終わった今、心臓がドキドキして軽くぜえはあ気味。なぜこの作品が話題になっていなかったのか。巷で多く取り沙汰されているテーマを扱っているが、その中でも屈指の出来だと思うのだが。

 

本書は、法によってその犯罪に適した罰を与えられなかった、または法を逃れた悪人について、それへの復讐の是非についてを真っ向から描いた作品だ。頭の形が変わるほど殴り殺された母娘、婚約者を撲殺され自身も複数の少年に暴行された女性、数時間のリンチの末殺された少年、精神鑑定や少年法に守られ、反省どころかますますエスカレートしていく悪人たちの所業。その被害者たちの苦しみをこれでもかと描き、救われない魂の持って行きどころはやがて「復讐代行」という秘密組織へと足を踏み入れる。

 

その代行者は犯罪被害者であり、その理解者であったりする。復讐は悪か善かという終わりのないテーマに、我が事として考え正面から復讐を否定出来る人間などあまり居ないであろう。しかし、この作品では、他人が代わって殺人を行う。中には、心臓病の息子を助けるために罪のないドナー候補に手をかける母親も登場する。その現実味のなさが「果たしてその考えは正しいのか」という疑問を生み出していると思う。小説として考えなければこんな所業がそうそううまくいくとは思えないし、同情、共感が少し薄められた気がするから。

 

作者が描きたかったのは、当たり前の答えが出ない感情のひとつ先ではないだろうか。作者自身、こういう復讐の感情に共感しながら、それでも悲惨な「復讐の末路」を血を吐く想いで描いたのではないだろうか。もちろん、復讐を認めては今の秩序は崩壊する。しかし、現行法で決して納得が行くわけではない。先日読んだ「灰色の虹」も力作であったが、個人的にはこちらの方が完成度は高いと思った。小説として、エンタメとして終結している気がする。

 

シリーズキャラクターの辿った運命については色々と波紋も呼ぶだろう。前2作を踏まえてこそだと思うが、私は前2作の内容を詳細には覚えていないので良かったのかどうか。それなりのドラマがあったと感じただけに自分の思い入れのなさが残念だった。しかしやはり、こういう辛い犯罪を描いた小説はエンタメと言えど辛いね。再読するエネルギーはきっとないや。