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月夜の島渡り  (ねこ4匹)

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鳴り響く胡弓の音色は死者を、ヨマブリを、呼び寄せる―。願いを叶えてくれる魔物の隠れ家に忍び込む子供たち。人を殺めた男が遭遇した、無人島の洞窟に潜む謎の軟体動物。小さなパーラーで働く不気味な女たち。深夜に走るお化け電車と女の人生。集落の祭りの夜に現れる予言者。転生を繰り返す女が垣間見た数奇な琉球の歴史。美しい海と島々を擁する沖縄が、しだいに“異界”へと変容してゆく。7つの奇妙な短篇を収録。(裏表紙引用)

 


恒川さんの、7編収録の短篇集。2012年に刊行された「私はフーイー 沖縄怪談短篇集」を改題したものらしいので、そちらを読まれている方は新刊だと思って買わないようご注意。

 

弥勒節」
人が死ぬときに’ユタ’が弥勒節を胡弓で演奏する風習がある島。島の青年がある時見知らぬ老婆からもらった胡弓にまつわるお話。「かわいそうでない者などこの世にいるものか」というセリフが心に残る。

 

「クームン」
少年が育った集落には、クームンという妖怪が出没するという。ある日少年が迷い込んだ家で出会った男の正体は――。暴力的な家庭に育った少女の身に起きた事件と絡んで不気味な色合いを見せる作品。

 

「ニョラ穴」
男が口論の果てに撲殺してしまった、よその地から来た男。その始末をしようと男は殺した男を舟に乗せて遭難を偽装するが――。島で出会った男がおかしくて恐ろしい。この世の者でないような雰囲気がゾクリとさせる。結末は、因果応報かな。

 

「夜のパーラー」
ある夜自転車でそば屋に迷い込んだ写真家の男。そこで働く娘といい仲になったが、娘は娼婦だった――。なんか、やることやっておいて説教するこういう男好きじゃない。「パーラー」って言い方が時代っぽくていいな。サスペンスと怪談の融合だね。一番好きかも。

 

「幻灯電車」
町の路面電車には奇妙な噂があった。深夜に、来るはずのないお化け電車がやってきて、見知らぬ場所へ行ってしまうというものだった――。家族でそのお化け電車に乗った経験がある少女の身の上話。嫌らしい大人に翻弄される子どもが哀れだ。これもサスペンスと怪談の体裁になっている作風。お化け電車に乗っていなければ、何かが変わっていたのだろうか。

 

「月夜の夢の、帰り道」
母とその島にやってきた少年は、長じてどうしようもない犯罪者となった。予言通りの人生が、果たして少年にやって来るのだろうか――。作中にもあったが、まさに「間違えなければ良かったのに」だ。夢の人生であることを望む。

 

「私はフーイー」
その島に現れた女の正体は「フーイー」だった。異国から逃げてきたその女は、動物に変身することができるという――。何度も生まれ変わるフーイーが見てきたものは、時代の移り変わり。人を斬首する野蛮な時代、戦争、廃藩置県。力強い生命力のある結末だが、今の時代は彼女にとって生きやすいだろうか。


以上。
どの作品も甲乙つけがたく、劣る作品がない。恒川さん、ホントにどんどん力をつけて安定して良くなっていくね。美しい怪談を描かせたら現代で右に出る者はいないんじゃないかな。沖縄に限定した作品集なので、ところどころ意味のわからない方言が出てきたけど、そこは雰囲気でなんとなく。私は8作読んできた恒川さんの作品の中でこれが一番好きかもしれない。