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マスカレード・ホテル  (ねこ4匹)

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都内で起きた不可解な連続殺人事件。容疑者もターゲットも不明。残された暗号から判明したのは、次の犯行場所が一流ホテル・コルテシア東京ということのみ。若き刑事・新田浩介は、ホテルマンに化けて潜入捜査に就くことを命じられる。彼を教育するのは、女性フロントクラークの山岸尚美。次から次へと怪しげな客たちが訪れる中、二人は真相に辿り着けるのか!?いま幕が開く傑作新シリーズ。(裏表紙引用)

 


うおおお!東野さんの新シリーズ、久々の傑作に当たったのではないだろうか。舞台が一流ホテル、しかも刑事がホテルマンに扮して捜査をするという突拍子もない設定であるにも関わらず、その強引さを物ともしない出来!

 

ダブル主役ということで良いのだろうか?ホテル・コルテシアのフロントクラーク業務に従事する山岸尚美と、そのフロントクラークに扮する敏腕刑事・新田浩介。東野さんの描く女性にはいかにも男の理想とする昭和の女性像というのが見え隠れしていて好まないことが多いが、この尚美は好感度の高いしっかりした人物だった。プロ意識が高く、ホテルマンとしてカッコイイばかりでなく、頑固すぎず柔和な女性らしい感覚も両方備えていて憧れる。一方新田は、最初こそホテル業務というものに対する無理解と高いプライドが邪魔をしていけすかない印象しかなかったが、尚美にホテル業務のなんたるかを教わり、捜査を進めるにつれ、見事な成長を見せた。多少ツンデレなところも母性本能をくすぐる。

 

事件のほうは、都内で不可解な暗号と共に発見される連続殺人が発生しており、次の犯人のターゲットがホテル・コルテシアであるということだ。この捜査、推理も、新田だけでなく同じく刑事の能勢や尚美と共に明らかとなっていく。が、この小説の面白味はそこだけではなく、「ホテル業務」にあると言っていいだろう。ホテルというところは、毎日毎日なんと変わった人々が訪れるものだろうか。ほとんどはまともな客だが、接客業の苦労と面白さを読んでいて痛感する。お客様(と、言わないと尚美が怒る)が明らかに間違ったことを言っていても、理不尽な態度を取られても、無理難題をふっかけられても、「お客様がルールブック」という信条をもとにテキパキと接客をこなしていく尚美が素晴らしかった。経験値もあるのだろうが、ここで怒る人間、投げ出す人間かどうかで人生に得られるものは変わってしまうのだろうなと思った。

 

ホテルについてのお話だけでも面白いのだが、それぞれが独立しているわけではなく、無理なく事件と関わって行く過程もさすが。1つ要求するなら、動機が「え、そんなことで?」というようなものだったのは残念。まあ、リアルでもそういう事件は多いけれど。ゆえに、「容疑者Xの献身」や「白夜行」のような傑作とは肩を並べるわけにはいかないが、ここ最近の東野圭吾のオススメはと聞かれれば私はこれを推すだろう。続編が楽しみだ。