すべてが猫になる

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すべては今日から  (ねこ4匹)

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日本でもっとも本を愛した俳優・児玉清。講談本で〈物語〉の面白さに目覚めた少年時代、洋書で読み耽る海外ミステリーへの愛、母の急死から始まった俳優への道、新幹線での運命の出逢い、そして結婚……。「今勝て、痛みはあとだ!!」の精神でタフに歩み続けた波瀾万丈の77年間が、紳士的かつ情熱的に語られる――。ライフワークとなった書評とエッセイを一挙に収録した、珠玉の遺稿集。(裏表紙引用)

 


今月発売された、児玉清さんの遺稿集の文庫版。本屋でパラパラと試し読みしていたらグンと引き込まれて読み続けてしまい、イカンこのままでは窃盗になってしまうと珍しく小説ではないものをレジへ持っていった。

 

児玉さんが愛書家だということだけは知っていたが、書評をいくつか読んだことがある程度だった。まさか蔵書2万冊、海外ミステリーの訳本に追いつかず原書ハードカバーで読むほどの方だったとは。しかも紹介されている作家にはディーヴァーやシェルダン、グリシャム、ダン・ブラウンなどの有名ベストセラー作家も多く意外な思い。しかも、ちゃんと読まれている上、的確にその作品の良さや特徴を掴み、愛情溢れる紹介文。その全てが熱い。読んだことのない作品の中には、これは是非とも読まなければと思うものも。え、そこからどうなるの?と気になってしまう。うまいなあ。海外ミステリーがど真ん中のようだが、時代小説やゴルフもの、ジャンルは多岐に渡っているようだ。本書には出てこなかったが、有川浩東野圭吾まで読まれているのだとか。「ミレニアム」や「特捜部Q」、「その女アレックス」などは読まれたのだろうか。児玉さんはどうだったのかなあ、などと友だち感覚で本の中に語りかけてしまった。

 

本にまつわる面白エピソードでは、海外で買った本が重すぎて飛行機に乗り遅れたとか(笑)、旅行では必ず7冊ほどの本を持っていく話にウンウンと頷いてしまった。私も職場では「読んでいる本」「それが読み終わった時のための本」「それが面白くなかった時のための予備本」の3冊を必ずカバンに持って行っていたから。

 

本の紹介が多いが、日本社会の憂いを記したものも印象に残る。マナー低下や政治家の幼稚さ、若者の本離れなど共感出来るものが多々。紳士のイメージが強い児玉さんだが、御子息によると愚痴も多くマナー知らずの人間とのケンカも多かったのだとか。人間味のあるお話だ。書評が熱くなりすぎて、「俺」という一人称も頻発し、「俺は待ってたぜ」「俺は震えたぜ」といった可愛い文章で締められていたり(笑)。好きな作品には「滅茶面白冒険小説」「大好き作家」という、プロなら使わないユニークな言い回しが多いのもかえって微笑ましい。

 

まあ、児玉さんだからと盲目的にオススメ本を褒めるつもりはないのだ、私も。中には読んだが私にはあまり響かなかった作品もオススメの中には数作あったし、まあ好みの違いは必ずあるという前提で、色々とメモをさせてもらった。ただ、この人の娘に生まれたかったな、と思ったことだけは告白しておく。