すべてが猫になる

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闇の喇叭  (ねこ3.6匹)

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私的探偵行為を禁止する法律が成立した平世21年の日本―。女子高校生の空閑純は、名探偵だった両親に育てられたが、母親はある事件を調査中、行方不明になる。母の故郷に父と移住し母の帰りを待つ純だったが、そこで発見された他殺死体が父娘を事件に巻き込む。探偵の存在意識を問う新シリーズ開幕! (裏表紙引用)

 

 

有栖川さんの新シリーズ。火村シリーズや学生アリスシリーズなどの固定ファンがついた必ず売れるシリーズをお持ちなのに、ベテランの今新シリーズを立ち上げたというそのチャレンジ精神にまず驚いた。さらに驚いたのが、読後知ったのだがこれが児童書だったということ。言われてみれば主人公高校生だな。というぐらいで、内容は大人向けに近い。特に最初の数ページで挫折する読者がいるのではないかといらん心配をしてしまった。

 

本書は歴史改変もので、第二次世界大戦後の日本が設定されている。元号は「召和」「平世」となっている。ソ連に占領され、北海道は日ノ本共和国と呼ばれる社会主義国であり、日本とは冷戦中である。日本はカタカナ言葉や方言、警察を脅かす探偵行為を禁止されており、徴兵制度もある。探偵小説を堂々と読むことは悪とされ、息苦しい世の中だ。

 

主人公の空閑純(ソラ)の両親は隠れて探偵をしており、母親は探偵業の中で謎の失踪をしている。この物語で起こる殺人事件の解決を担っているのは父親であるが、その背中を見てソラは探偵の真似事をしているという状況。

 

と、あらすじや説明だけでも行数を食う作品である。正直、北海道=北朝鮮、日本=韓国を彷彿とさせるこの設定には抵抗があった。改変ものとは言え、世界で起こり得なかったことはほぼ扱っていない印象があり、単なる空想世界とはほど遠い。なのでヒリヒリとしたこの焦燥感や暗澹としたこの雰囲気が身につまされるようで入り込みにくかった。ヒラリー・クイーンとかそういう言葉遊びも滑っている感が強い。

 

のめり込み始めたのは終盤からの、事件が解決し、ソラが自立を決意する感動的なくだりから。遅いか。
解説がご本人によるものなのでじっくり読んでしまったが、元々ここで完結し、その先を読者に委ねるつもりだったらしい。今は続編が出ていることを知っているのでそれほどモヤモヤはしなかったが、当初の予定の通りなら母親の謎ぐらいはもう少し明かすべきだったのではないだろうか。まあ、続編も買ってあるのでこれからのソラの活躍が楽しみだ。