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流れ星と遊んだころ  (ねこ4.5匹)

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傲岸不遜な大スター「花ジン」こと花村陣四郎に隷属させられているマネージャーの北上梁一は、ある夜、一組の男女と出会う。秋場という男の放つ危険な魅力に惚れこんだ梁一は、彼をスターにすることを決意。その恋人である鈴子も巻きこみ、花ジンから大作映画の主役を奪い取ろうと画策する。芸能界の裏側を掻い潜りながら着実に階段を上る三人だが、やがてそれぞれの思惑と愛憎が絡みあい、事態は思わぬ展開をみせる―。虚々実々の駆け引きと二重三重の嘘、二転三転のどんでん返しが、めくるめく騙しの迷宮に読者を誘う技巧派ミステリの傑作。(裏表紙引用)

 


連城三紀彦の名はもちろん知っていたが、恥ずかしいことに1冊も読んだことがなかった。1948年に生まれ、「幻影城」で名を馳せ、直木賞泉鏡花文学賞吉川英治文学新人賞などの豪華な賞歴があり、恋愛小説のみならずミステリー界で高い評価を受け続け、ランキングものの常連となっている作者。今回、「おすすめ文庫王国2015国内ミステリー部門1位」に輝き本書が復刊され、本屋に絶賛の帯とともに平積みされることとなった。

 

あらすじだけを読んでみると、昭和の古臭い匂いがプンプンするので大丈夫かなと危惧していたが――。目まぐるしく変わる展開と早くも中盤から怒涛のように押し寄せるどんでん返しに瞬く間に翻弄され、一気に夢中になってしまった。一人称と三人称で語られる小説となっているが、大物俳優のマネージャーがヤケになり、女に引っかかり、殴られ脅迫をされ――という平凡なお話かと思いきや、もう序盤から読者を引っ掛けてくれる。登場人物の誰もが嘘をついていて、その嘘が本当はこうでその本当も実はこうで、、とやり過ぎなほどだ。中盤のある仕掛けが判明した時には、「え、え、えええ?」と思わず声が出るほどだった。難しいことをわかりやすくが一番凄いと思う自分にとっては、この作者の妖艶とも言える文章とミステリ的技巧の高さに完全にノックアウトだった。作品の性質上、ストーリーやキャラクターについてあまり触れることは出来ないのは残念だが、ともすれば気持ち悪いとさえ思えるここにある恋愛の形や芸能界の泥臭さなど、物語としても充分楽しめる。時代が時代なので「そんなバカな」な演出も多いのだが、まあテレビの中はそれほど今と変わっていないかもしれないなと。

 

話それた。まあ、ここまで技巧に走っているとラストの着地がどうも、、というものも多いのだが、本書の最後の最後まで気を抜けない幕引きの見事さよ。書評を回っても、けなしている人が1人も見つけられなかったのもすごい。他の作品もどんどん読んでみたいのだが、果たして入手しやすいのだろうか。