すべてが猫になる

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ブラックジュース/Black Juice (ねこ3.7匹)

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夫殺しの罪でタール池に生きたまま沈められる姉さんの死を、僕たちは歌いながら最後まで見届ける―世界幻想文学大賞受賞の残酷譚「沈んでいく姉さんを送る歌」、道化師を執拗に狙う殺し屋を描く「赤鼻の日」、象の一人称で語られる逃走劇「愛しいピピット」、奇形の天使との遭遇を描くファンタジー「俗世の働き手」、大気が汚染されつくした近未来、祖母の葬儀へ向かう孫が幼い日の記憶をたどる「無窮の光」、凶暴な怪物の襲来に怯える異世界を舞台にした、少女の苦い初恋物語「ヨウリンイン」ほか、全10篇。(裏表紙引用)

 


マーゴ・ラナガン初読み。オーストラリアの幻想小説作家ということで、一篇目の「沈んでいく姉さんを送る歌」は世界幻想文学大賞を受賞している。この作品は、夫を殺した妻(姉さん)が、刑罰としてタール池にゆっくりゆっくり沈んでいくのを家族が見守りながら送るというなんとも残酷で幻想的な、不思議すぎる世界観を持ったものとなっている。この作品のおどろおどろしい雰囲気と、ちょっと間抜けにすら見える家族の悲哀は滑稽なほどで、そのアンバランスさが魅力を最大に引き出している。私はもちろんこの作品をとても素晴らしいと思い、また大変好みであるが――奇想コレクションの恐ろしさ、「前半に良作、中盤から???」のレールそのまま突っ走ってしまった。もっと言えば、私はそれ以外の作品を深く読み込めなかった。驚いたことにアメリカなどではこの作品集は児童書の扱いらしく、読みにくいであるとか専門用語が乱立しているだとかいうことは全くない。むしろ読みやすい。なんとなく、雰囲気だけを描いたイメージの物語が主流であり、誠に勝手ながら恩田陸氏の「象と耳鳴り」に近い感覚だった。

 

その中でも、勝手な奥方を持つ旦那のことを想う忠臣の心を描いただけの「わが旦那様」、設定が複雑だが「三人の家」の正体と登場人物の異様さが突出している「大勢の家」、花嫁学校を卒業した花嫁が取った行動が興味深い「融通のきかない花嫁」は好みだった。

 

イメージだけで読むのが正解なのだとしたらあながち間違ってはいない読み方だったのかもしれない。ストーリー性、起承転結を求めてはいけないので、そこは好き嫌いの分かれ道かも。